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まだまだ暑さが残る今日、ラフな格好で過ごしたいという気持ちを引き摺りながら俺は制服の袖に腕を通した。 休日気分が未だ全く抜けていないが、今日から新学期が始まる。 大きく息を吐いた俺はいつも通り早朝に寮を出て、いつも通りガゼボで読書時間を過ごし、いつも通りギリギリに登校した。 教室内ではいつもと変わらない挨拶に交じって、夏休み明けらしい会話も聞こえてくる。 「数学の課題終わってないんだけど」 「昨日徹夜で終わらせてきたよぉ」 「夏休みにね、家族で旅行に行ってさぁ」 「いいなぁ!」 課題の見せ合い、思い出の見せ合い、語り合い。なんて在り来たりで、なんて平和な光景。 新学期もまた、何事もありませんように……! 心のなかで祈りつつ席に着いていると、前の方から一段と盛り上がる会話が聞こえてきた。 「こ、これっ!藏元くんにお土産っ」 「ぁずるい!抜け駆けだよぉ!」 「僕もこれ、藏元くん好きかなと思って買ってきたんだけど……!」 数人の生徒に囲まれて、旅行土産を次々に渡されている2Bのアイドル様。 ……休み疲れの気配一切無しかよ。朝から爽やかで、当然のようにモテモテですよ。……全員男だけど。これも平和の光景だよなぁ……。 頬杖をついて教室を見渡していると、偶々、お土産を受け取る藏元と目が合った。 「?」 「……旅行、行けてよかったね」 藏元はただ微笑んで、お土産をくれた生徒に視線を戻す。 「ぅ、うんっ」 「俺、どこにも行けなくてさ……」 ………………。 「えー!言ってよぉ!!」 「誘えばよかったぁ!!」 より盛り上がる会話から目を反らして、俺は心のなかで唸る。 冬休みの話、忘れたらヤバそうだな……絶対覚えておかないと。 チャイムが鳴り、皆はわいわいと騒ぎながら席に着く。 「おーっすお前らぁ元気だったかぁ」 ドアを開け、ダラダラと入ってきたズッキーは態度に反して見た目スッキリとしていた。 ……これはまた、なんかあったな……。まぁ、俺から進んで聞く気はないけど。 「よしお前ら。休み明け、このあとの始業式が終わったら、何よりもまず最初にすることは……まぁ、分かるよな?」 教卓に寄りかかって教室を見渡したズッキーはにんまりと笑った。 「課題の提出確認するぞぉ」 その一言に、終わってない連中から悲鳴が上がった。 「なんだよ、終わってねぇやついるのかよっ…………なんて、まぁだよな。俺も学生時代、まともに終わらせたことなんか無かった!」 あれよ。仮にも教師だろ。嘘でもそこはやるようになった、くらい言っとけよ。 「でもなァ、課題は出ちまってるから終わらなかったで終わらせられねえんだよ。だから居残りしてまで終わらせろ」 ……終わらせろ、の一言で済むことだよね。何ちょっと複雑に言ってんの。 「でも初日から居残りってのも可哀想だから……仕方ねぇから、今日だけ特別に、今日の放課後の居残りは講師もつけてやる」 ズッキーの提案に、嫌々だった生徒たちが注目する。俺は一体誰を呼ぶ気なのか、と少し胡散臭さを感じながら聞いていた。 「藏元王子だっ」 ……は? 「…………俺、ですか……?」 きょとんとする藏元、一気にやる気を出す生徒、思惑通りにいったとばかりににやけるズッキー。あの反応からするに、藏元も今初めて言われたんだろうな。 「今日の放課後、取り敢えず総合課題だけでも提出するように。つーことで、見てやってくれ!藏元王子!」 「…………俺でよければ、構いませんけど」 ……まぁ、藏元は断らないよな……。 総合課題というのは、科目以外の学年毎の課題のこと。今回の夏休みの総合課題は、“地球環境について”の作文だった。でもズッキーがそれだけを優先する理由はなんだ? 「そして全員分揃えて放課後持ってこい、成崎」 「俺かよっ」 「ん?お前は委員長だろ!」 「はぁ……この際明日でもいいじゃん」 「いやいや、夏休み明け初日に総合課題、2Bだけ揃って提出してみろよ?優秀だなって評価上がるじゃん。俺の」 白ける教室。一瞬で信用を失ったっぽい。 「……皆、大丈夫だよ。評価とか気にするようなら、もっと前から真面目に教師やってるから。」 「……おい成崎」 「安心して?あのやる気の無さは顕在してるから、今もバッチリ駄目教師だよ」 「おーい成崎。悪口しか言ってないぞぉ」 ズッキーとの下らない掛け合い。クラスメイトの笑い声。 変わらない日常。 そう思えてた俺は全く気付いていなかった。 平和な学校生活は、夏祭りのあの1件から既に崩れ始めていた事に。

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