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始業式を終えて、帰れる生徒は帰った放課後、教室には課題が終わっていない生徒数人と、ただ藏元の講師姿を見たいだけの生徒が数人残っていた。 今日中に終わらせろと言われた課題は作文だけの筈なのに、いや、ただ藏元と話したいだけなのか、他の課題も皆終わらせるつもりらしく、熱心に取り組んでいる。 「ねぇねぇ藏元くん、ここはどうやって解くの?」 「ぁ、えっとね、」 ひとりがまた、藏元に質問する。時間を費やしてご丁寧に教えようとする藏元を俺はいい加減見ていられなかった。 「……分かるくせにぃ。さっきの問題と同じ理屈だろー」 「わ、分かんないもん!」 頬杖をついたまま呆れた顔でぼやけば、その生徒は真っ赤になって訴えてきた。 本当は解き方なんて知ってる。だけどこの機会に、少しでも藏元の傍に行きたいんだろう。でもそれをずっとやってたらいつまで経っても終わらないぞ。 「成崎くんおまたせぇ」 藏元の気を惹こうとする生徒をどうするべきか悩んでいると、総合課題を仕上げていた最後のひとりが俺に提出してきた。 「おぉ、お疲れ。これで全員分だ」 「俺が最後だったのかぁ!ごめんねぇ」 2B全員の作文用紙をトントンと整えて、クリップで留める。 「いいよ、終わってよかったな」 最後だった生徒に笑って立ち上がり、藏元のほうを見る。藏元は数人の課題を一度に見ていた。 「……藏元センセー」 「……!何?」 なんかビクってしたけど……? 「職員室行ってくるから、ここよろしくな」 「ぁ、俺も行こうか?」 「センセーいなくなったら本当に分からないとき皆が困るだろ」 「あはは……いってらっしゃい」 「んー」 人に気を遣いすぎる藏元に、色々我が儘言いそうな居残り生徒全員を任せるのは心配だけど少しの間くらいなら大丈夫だろ。 教室を出て職員室に向かう。夏休み明けの初日、さすがに今日学校に残ろうなんて物好きはおらず廊下は閑散としていた。 ……うちのクラスみたいな居残り希望のやつらは別として。 「失礼します。2年B組、成崎です。」 職員室に入り、目的の机まで進む。 「……ご所望の総合課題、全員分です。どうぞお受け取りください」 クリップで留めた用紙の束をズッキーの机の上に乗せる。 「おぉすげぇ。やればできるじゃないか2B諸君」 「……じゃ」 「おいおいおいおい待て待て」 「なんすか」 「聞かねぇの?」 「何を」 「気になってるんだろ?」 「だから何をすか」 「なんで総合課題優先させたんだよって」 「…………全然」 「もぉー素直じゃねぇなぁ!まぁ聞けよ成崎!」 「先生がめっちゃ言いたいんじゃん」 「……そうだ」 認めるんか。 「あのな?」 「……」 手を小招いて近くにくるようジェスチャーするズッキーにため息を吐いて言う通りにする。 さっさと従ってさっさと解放してもらおう。 「……ある人に、俺のきっちりしてるところを見て貰おうと思ってな」 「……はぁ?」 「その人は、かなりちゃんとしてる人でなぁ……なんつーか、アピール?しようと思ってな」 ……アピール? ……は、その人に見えるところでしなきゃ意味ない………てことは、いやまさか、…… 「……職場かよ」 「そお!お見事成崎っ!」 「じゃあ見た目スッキリしたのも、“きっちり”を見せるため?」 「そおっ!その通り!」 「……ぁそう。ガンバッテネ。じゃあ」 「ちょ!冷た!待てって!まだだよ!」 「もーなんなんすか。聞いたじゃないですか」 俺は今あんたの新たな恋愛話より、藏元が無茶ぶりをくらってないかのほうが心配なんだよ。 「委員長への仕事だよぉ!」 「っとにめんどくせぇな」 「おい成崎!本音出ちゃってるから!」 「ふぅー……で、仕事ってなんすか?」 「文化祭、そろそろ準備期間になるだろ?」 うわ最悪だ。またイベントくる……。 「それで各クラス、使用する暗幕の手入れをしなきゃならなくてな」 「……あー……それを取ってこいと?」 「そうそう。校舎の奥の物品倉庫に仕舞ってある筈だから2Bの分、2枚取ってきてくれ」 「手入れは?」 「俺がやる」 ニヤリと笑ってかっこつけたズッキーに舌打ちしたくなる。 「綺麗好きを、アピールしないとな!」 「……ならまず机の中からじゃないすか」 「!?な、なぜそれをっ」 「ちょっと前まであんなに汚かった机の上が今こんなに綺麗って……ただ引き出しに突っ込んだんでしょ。バレバレっすよ」 「!!!?」 「じゃ、倉庫行ってきまーす」 驚愕と動揺で固まるズッキーを放置して、俺は倉庫に向かった。

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