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校内を奥へ奥へと進んでいく。物品倉庫なんて、普段は用もないし近づくことなんてほとんどない。それは俺に限った話じゃなく、生徒全員がそうだと思う。
だからそれも相俟って、放課後の今は人の気配が全くない。音も、俺の足音以外一切ない。
「あー……早く帰りたい……これってほんとに学級委員長の仕事なのかよ」
文句を垂れつつ、目的の倉庫までダラダラと歩みを進め、漸く到着する。
ドアを開け、中を覗く。暗い中は埃臭くて入室を躊躇する。入り口近くの壁を擦って倉庫の明かりのスイッチを探す。
明かりを付けて見えた倉庫の中は、全く整理のなされていない酷い状態だった。積み上がった本や書類、何かの小道具をただ詰め込んだ箱、積み重なった段ボールの塔。埃防止のビニールはかけてあるけど、ビニールは黄ばんでるし、そのビニールに埃が溜まっている。
「きったねぇ……」
見渡し、物にぶつからないように倉庫を進む。天井の隅には蜘蛛の巣まである。
ここは果たして本当に使われている倉庫なんだろうか……最早、幽霊屋敷の一室……。
「……つーかズッキー、単にここに来たくなかったんじゃね?」
自分が騙されただけなのでは、という可能性が浮かぶ。
「ぁ、あった。……さっさと帰ろう」
倉庫の奥の棚、暗幕もビニールがかけられて置かれていた。畳まれた暗幕2枚を引き抜き、抱える。この場所に用の無くなった俺は、埃臭いこの場から早急に撤退した。
帰りの廊下を歩いていても、まだ埃臭さがほんの僅か鼻を掠める。
多分これは抱えている暗幕から臭うんだ。
……最悪。さっさと手放したい。
「これは手入れ大変そうだな……」
“アピール”に張り切ってたズッキーを思い出し、少し可哀想になる。
だらしないズッキーが自ら面倒を引き受けてしまうなんて……まぁズッキーが自分でやるって言ったんだし……いっか。ズッキーに押し付けて、早く教室に戻ろう。藏元がいい加減心配だ。
そう思って少し歩く速度を上げたとき、言い争う声が聞こえた。
「……?」
声の聞こえ具合的に近くの部屋だ。
どこかの空き教室か?……空き教室…………。物凄く、嫌な思い出しかない。頼むから、俺を巻き込まないでくれ。赤の他人であってくれ。痴話喧嘩ならふたりだけで解決してくれ。目につくところでやらないでくれ。
場所が特定できないので取り敢えず忍び足で歩く。ずり落ちてきた暗幕を抱え直したとき、数メートル先の空き教室の扉が開いた。
「待ってくださいよ!」
「しつこいしうるさいんだけどっ」
「……ぇ……」
出てきたふたりに、俺は目を疑った。
先に現れたのは超美人で理解不能、東舘さん。追いかけるようにファイルを抱えて出てきたのは可愛くて超天使、千田。
このふたりが言い争いの声の主?……謹慎は終わってたのか。つか、この組み合わせって一体……
「……!なりちゃん!!」
苛ついていた様子の東舘さんは俺の存在に気づくなり、表情を笑顔に変えて歩み寄ってきた。
その反応、あなたが普通の人だったらめっちゃ嬉しい反応なのに……
「ちょっ!く、来んな!寄るなっ!」
「?……なりちゃん?」
どうしたの?とでも言いたげに東舘さんは首を傾げている。
「ぃ、いやいやいや!あんた最後に会ったとき俺に何したか覚えてます!?」
「……あぁ!……でもできなかったじゃん?」
「そういう問題じゃねぇだろ!アホかっ!!」
「ねぇぇギュッてさせてよぉ」
「ふざけんなっ!あんなことされたんだぞ!!誰だって警戒するだろ!!」
「あーついに俺の事意識し始めてくれた?」
「意識!?トラウマの間違いですけど!?いや恐怖って意味では意識してるよ!!!」
東舘さんの前に両腕を突き出して暗幕を盾にするように距離をとる。
なんでこの人今まで通り接してくんの!?気違い怖いんだけど!!怖すぎる!!!
俺が少しずつ後退していると、左腕を千田に掴まれた。
「!」
「ごめんね、成崎くん。タイミング悪かったね……。教室まで送るよ」
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