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「嫌だっ!行かねぇって!はっなせっ!このっ!!」 「いいね。警戒心強くなってるじゃん。それでこそ、こっちも燃える」 「東舘さん!!も、ほんと嫌だって!!!いい加減にしろよっ!」 「大丈夫。前みたいなことはしないってぇ。なりちゃんには何もしないからぁ」 先程ふたりが出てきた空き教室に連れ込まれ、窓際の椅子に無理矢理座らされた。 「何する気っ……い゛っ、ちょっと待てって!俺に何もしねぇって!!」 腕を後ろに組まされ、紐のようなもので縛られた。 「うん、しないよ。なりちゃんには、何もしない。……あーでも、逃げちゃうだろうし、手は許して?」 「逃げるに決まってるだろ!!」 にっこり笑った東舘さんが何を考えているのか全く分からず、ただ目で追う。 千田は申し訳なさそうにこちらを見るだけで、俺の目の前の机の上に座っている。 なんで……助けてくれないんだよ?ほんとに……助けてくれてたのは俺の勘違いだったのかよ? 千田が持っていたファイルを手に取った東舘さんは、その中身をそこら一帯に降らすようにばら蒔いた。 「?」 大量の紙はヒラヒラと舞って机の上や床に落ちた。 「……!?……な、……に……これ……!?」 それは写真だった。 全部、人の写真。 全部、同じ顔。 全部、冴えなくてやる気のない顔。 ……俺の写真だった。 「驚いた?よね?これぜーんぶ、なりちゃんだよ」 「……」 「あはは。絶句。ほらね。ドン引かれてる気持ちはどう?これも快感なわけ?ねぇ、ド変態」 「……ぇ……?」 東舘さんの明るい声に似合わない恐ろしい内容に俺は机に座る人を見つめる。その人は少し困った顔をして俺を見ていた。 「こいつさ、俺に抱かれるためになりちゃんのこと盗撮してたんだよ?」 「……は……?」 何……何言ってんだよ?盗撮? 千田が、俺を……? 「こんな写真とか、普通こいつは撮れないじゃん?でもこいつのファンは、こいつのお願いひとつで撮ってくるんだよ」 目の前に翳される写真はどれも、違うクラスの千田では決して撮れない写真ばかり。 だけど撮れてるってことは、以前話していた“忍び”のファンの力を借りて…… 「……ごめんね、成崎くん。助けたいって気持ちもちゃんとあったけど、……僕は全然優しくないよ」 「……千田……?」 眉尻を下げて微笑んだ千田は、全然怖くない。でも、今の千田は得体が知れなくて……気持ち悪い。 「じゃ……じゃあ俺がヤバイときに来てくれたのって……」 「うーん……近くで見たかったんだよね。重い愛ってどれくらいのものなのか、知りたくて」 「重い愛……?何のことだよ……?」 「東舘副会長の独占欲の塊の愛って、凄く重いでしょ?」 「……は?」 「僕、そのくらいの愛じゃないと満足できないみたいなんだよね。可愛い可愛いって愛でられるだけの甘い愛じゃ物足りなくて」 …………何言ってんのこいつ? 「僕を愛してくれる他の生徒はまさにそれだし。ノンケだった人ならこっちにハマった途端重くなるかなと思ったんだけど……結局優しいままだし」 ズッキーのことか?だよな?独占欲丸出しのオヤジにしようとしてたわけ?なんつー企てしてんだよ!? 「やっぱり東舘副会長の重い愛が欲しかったんだよね。……でもそれは成崎くんが独占してるし」 「しとらんわ!」 「そう思ってるのは成崎くんだけだよ」 「うんうん。俺の愛はなりちゃんに全部捧げるから」 なんでここだけ意見一致してんだよこのふたり。さっきまで衝突してたじゃん。 「だからね、成崎くんの力を借りて少しずつ僕が貰おうと思って」 写真を1枚手に取り、それに口付けした。 「写真を見ながら、僕とドロドロにセックスして、段々写真を減らしていって、最後は僕だけを見てもらうつもり」 「…………」 「分かった?なりちゃん。こいつこんな奴だから。全然いい奴じゃないだろ?」 「……東舘さんは、1番じゃなかった」 「?何が?」 「……こんなド変態がいたなんて……理解不能ナンバーワンは千田でした。」 「あははっでしょー?」 ……あっ、あの時、東舘さんを理解できるって言ってた千田……!あれは既に変態を示していたんだ!!こんな身近にこんなとんでもない変態がいたなんてっ……! 「……はい。俺の勘違いでした。理解しました」 「よかったぁ」 「つーことで、もう解放してください」 「……何?」 「千田の本性は分かりました。ただ、ちょっと色々整理したいので…………手、ほどいてください」 「……だぁめ」 「はぁ?」 「俺の思いはまだ伝えてないからぁ」 また何をふざけたことを……と言おうとした俺は、突然見せつけられたその光景に体を強張らせた。 「っ!」 机の上に座っていた千田をいきなり押し倒してシャツを破り、ベルトを奪う東舘さん。千田は特にこれといった抵抗はしていない。 俺ばかりが焦った。 「ちょ、ちょっと!?何して!?」

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