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東舘さんは千田のスラックスと下着を一緒に脱がすと、自分もベルトを外し始めた。
嘘だろ!?嘘だろ嘘だろ!?勘弁してよ!!なんでこんな目の前で!!
俺は青ざめて顔を限界まで反らす。
「あはは。本物のなりちゃんに見られてるとか、めっちゃ興奮するー」
「キモい!馬鹿じゃねぇの!?やめろ今すぐっ!」
拒絶して瞼を閉じて、極力情報を取り込まないよう努力するがそれすらも楽しむように東舘さんは笑った。
「こいつさぁ、何もかも準備してんだよね。俺がこいつ相手に前戯しねぇって理解してるから。そこまでしてもやりてぇって、そこだけは凄いよなぁ」
うるせぇ黙れ!!何も聞きたくねぇ!!
「そういう東舘副会長も、勃ってるじゃないですか。やる気満々ですか?嬉しいです」
「はぁ?なりちゃんの恥じらう顔見て、勃たねぇわけねぇだろ」
ふたりとも、態度も声音もいつも通りで俺だけが混乱していた。耳を塞ぎたくて必死に縛られた腕を動かす。ほどけはしないものの少し、緩くなってきている気がした。
「あっんぁあっ」
「っ……!!」
矯声が、拒絶する俺の耳に残酷にも届く。今、目を開けたら間違いなく、目の前のそれを見てしまう。
「ひっ……んあ、あっ」
「顔見ると萎えるから、写真持ってろって言ってんじゃん」
「うんっ、ごめんなさっ……あ、あっ」
そっ……それでいいのか千田!?こいつらほんと最低すぎるだろぉ!!!
「なりちゃん、……なりちゃんっ」
「うっさい……!!」
「もう諦めなよ。こっち見てよー」
「うっせぇ変態ども!何考えてんだよ気持ち悪い!!消えろ!!」
「ふふっ……あーなりちゃんの声サイコー」
「んんっあ、ふ……あんっ」
何故か少し盛り上がり始めたそいつらに俺は絶望が膨らむ。肌がぶつかるリアルな音、ふたりが動く度に机が軋む。
もう勘弁してくれぇええっ!!!
「東、舘副か」
「喋んな」
「ひぐぅ……!」
ガンッ
鈍い音がして反らしたまま思わず目を開けてしまった俺に、東舘さんはクスクス笑いながら囁いた。
「大丈夫。こいつこういうのも好きらしいから……あ、俺限定で、だって。」
「っんぅ……はいぃっ」
こういうのってなんだよ……!なんだよこの状況っ……!なんで俺はいつもいつもっ……!
「……あーその顔。最高だよなりちゃん」
「……は……?」
「可愛い。俺のなりちゃん」
「んぅいっあ、あぁっは」
バチュジュグチュ
「!!?」
突然荒くなった呼吸、早くなる音。ゾッとして腕を力一杯動かせば、引き抜くには十分縛りが緩くなった。
焦る俺は腕を引き抜いて、形振り構わず空き教室から飛び出した。
何かを叫んだのか、ただの矯声か、後ろから聞こえる恐ろしい声から逃れるようにただ走る。
怖くて、しんどくて、感覚の鈍っていた体は重くて、脚が縺れて、廊下で見事にすっ転んだ。
「…………」
しんと静まり返る周辺。
どうやらあのふたりの声が聞こえないところまでは逃げてこれたらしい。
伏せたまま、頭が落ち着くのを待つ。
俺はまた馬鹿をやって……千田はとんでもない奴で……東舘さんは本気で俺を……
「……嘘だろ……俺………………冗談だと言ってくれ…………俺………………」
起き上がり、自分の心身の異常を今さら認識した。
思春期真っ盛りの高校生だから仕方ないと言ってしまえば仕方ないけど……あんな状況で……勃つとか…………
自分の低すぎる精神にガッカリする。
廊下の隅に移動して丸まる。幸い、ここはまだ人が寄り付かない廊下だ。落ち着くまで、ここでじっとしていよう。
膝に顔を埋めたまま、ポツリと呟いた。
「……バレたら…………どうしよう…………」
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