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ジャーーー ドアの向こうで蛇口から流れる水の音が聞こえる。藏元が手を洗っている筈だ。 俺は個室のドアを閉めて、色々の諸々のアレコレを処理した。後始末をしていると、罪悪感と背徳感が増強する。 雰囲気と気持ちと体の状態に流されてあんなことしちゃったけど……俺はとんでもないことを……。 ため息を吐いたとき、水音が止まった。 「成崎、大丈─」 「もっ回洗え」 「えぇえ?3回目だよ……?」 「乾燥でパキパキになってハンドクリーム欲しくなるくらい洗え」 「あはは、何それ」 「笑い事じゃねえよ」 「もう充分だよ」 「俺が耐えられねぇんだよっ」 何度目か分からない大きなため息を吐いて、個室のドアを開けた。つい数分前に醜態を晒したわけで、目の前にいる藏元とどう接すればいいのか戸惑う。 が、それを忘れて目についてしまったのは藏元が着ているシャツだった。 「うわっ……シャツ……ほんと、何やってんだよ俺……」 肩を落として項垂れる。 「シャツ?」 「…………」 何も言えず、手洗い場の鏡を見るよう指差す。藏元のシャツは、肩付近を中心に皺々だった。原因はひとつしかない。俺がひたすら握り締めていたから。 「ほんとごめん……それ脱げる?」 「え?ぁうん、中にTシャツ着てるけど」 「じゃあそのシャツ貸して。洗って返すから」 「そんな気にすることじゃないよ」 「俺が嫌なの」 「……」 「……藏元」 「俺は、嬉しいよ?」 「はぁ?着てるシャツ駄目にされて何が、」 「それだけ感じてくれてたってことだと思うから」 「ーーーっ!!!!??」 強烈なワードをあの神々しい笑顔を添えて放ちやがった。 「好きな子と……成崎と、こういうこと出来て……凄く嬉しかった」 「すっ……うれっ……!?」 情けない姿を見せた。とんでもないことをしてしまった。藏元に、内心幻滅されていたらどうしよう。 そう思っていたけど、藏元が照れ臭そうにはにかむから、俺の罪悪感も少し減った気がした。 「……いやでも!シャツは貸せ!洗って返すから!それは譲らない!」 「あはは分かった。ありがとう」 ボタンを外し、袖から腕を抜き、Tシャツ1枚になった藏元はシャツを手渡してくる。 その姿がいつもより逞しく見えた。腕の筋肉の筋、胸板、首。意外と藏元って筋肉あるんだな。……あ、当然俺よりはあるだろうけど、そんなに筋肉のイメージ無かったから。……これも、友だちから、こ、恋人同士になったから変わった目線……なのか? 「……ぁ……」 「ん?何?」 「……ぁいや……」 シャツを受け取り、気付かれないように少し握りしめた。 「何?また何かまずいものでも見つけた?」 「……その……あー……藏元、さ……」 「うん?」 「……こ、こういうこと……俺として嫌じゃないの?」 「……うん。俺、成崎のこと好きだから」 「!へ、返事だけでいいっつーの!」 なんでこの王子様はサラッと口説いてくるんだよっ!こっちの心臓が持たねぇよ! 「……その……付き合ってる、じゃん……ぉ俺ら」 「うん」 「……だ、だからっ……」 「うん?」 「……俺は……その…………何もしなくて……よかったのかよ……?」 「!!?」 目を見開いて肩を揺らした藏元から、視線を反らす。 めっちゃ恥ずかしいし、そんな知識も殆んど無いに等しいけど、付き合っているなら俺も何かすべきだったんじゃないか。 せっかく普通に戻っていた俺の顔はまた真っ赤になっていると思う。

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