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「ぇ、……と……」 「だ、だってそうだろ!俺ばっかされてたら、俺がオンっ……!」 「?」 ナ、みたいじゃんっ…… 「…………つまり、されてばかりが不満ってこと……?」 「え……ぁいや、不満っつーか……そうじゃなくて……藏元はその……」 我ながら歯切れが悪すぎて苛つく。直球で言えたならどんなに簡単か。 「……」 「……ねぇ、成崎」 「……なんだよ」 「さっきも言ったけど」 「ん?」 「俺は成崎に触れたいから触れたんだよ」 「な゛っ……」 「だから、俺から成崎に何かを求めたりはしないよ」 ……馴れてないことを無理してするなってこと?それともやりたくないことを我慢してやるなってこと?どっちにしても…… 「……ぉ、俺だってな……」 「?」 両拳を握り締めた。 誰がどう見たって、俺より、藏元に触れることの方が難しいに決まってる。そんな特権が、恋人という特権が手に入ったのなら誰だって少しくらい思うだろ…… 「俺だって……藏元に触れたい……」 「………………」 「………………ァ……」 言ってしまって数秒後、今さら恥ずかしくなって慌て出す。 「いっ!今のはっ!そういうことじゃなくてっ、あの、手……手!手繋いだり!とか、えっと」 俺ってほんと情けないし阿呆丸出しだよな…… 藏元みたいにスマートにキメられない自分が悲しい。 「と、とにかく!俺だってぅ゛──っ!?」 誤魔化せていない誤魔化しを言い終えようとしたとき、突然腕を引っ張られ、藏元の胸に激突した。両手を背中に回され、藏元の腕のなかに閉じ込められる。 「ぁああのっ……藏元さん??」 「……ありがとう」 「???」 「大丈夫。成崎は無意識のうちに、俺がして欲しいこと、してくれてるから」 「…………ぇいつ?」 「そういうところも好き」 「……今、完全に誤魔化したよな」 「あはは」 耳元で笑った藏元は、さらに腕の力を強めた。 「ちょっ、おい!痛いって!加減しろよ!お前またか!」 「うん。まただね」 故意犯かよ。 「……あぁ、そうだ。成崎、ひとつお願いしてもいい?」 「っ……な、何……?」 神妙な声に、少し緊張する。この会話の流れからのお願いだと、ちょっと身構えてしまう。 体を離した藏元は俺の顔を覗き込んで微笑む。 「ちゃんと、教えてくれる?東舘副会長と何があったのか」 「あ……」 そうでした。その話がまだ済んでなかったんだ。 半笑いで目を反らした俺はそのあと、事細かに報告せざるを得なかった。

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