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「あーそういえば君、得意なんだよね?スポーツ」
「前回、勝たせてもらいました」
「余裕で勝った、みたいな顔しないでくれる?ぶん殴りてぇわ」
「そんなこと思ってません。全力出して、あなたに勝ちました」
「……ぇ……ぁ……」
バチバチと火花を散らすふたりのすぐ傍で、俺はただ挙動不審にオロオロした。
誰か。誰か助けてくれよ。まただよこの立ち位置。なんでこうなんだよ。冷や汗が止まらないよ。
「じゃあ今回も勝負しよっか。最初から本気で相手してあげる」
「副会長、野球できるんですか」
「君こそ」
「ちょ、ちょっと!ふたりとも!もうその辺にしましょうか!」
万歳をして降参ポーズを取った俺はふたりの喧嘩をどうにか止める方法を探す。
「ほら、あのっ……ほ、HRが、進まねぇし!ね、ズッキー!」
ズッキーに、なんとか意図が伝わってくれと願った。
「いや。他人の修羅場は見てて面白いから。それ終わってからでも全然いいよ」
この役立たずのマヌケ教師!!他人の地獄を面白がってんじゃねぇよ!
「み、んなにもほら迷惑─」
「勝ったら、“一日デート”ってのはどう?」
「!!?」
「いいですね。」
「いいの!?」
まさかの賞品に俺が驚愕したら、藏元も東舘さんも真顔で見てきた。
「……駄目?」
「ぇ……だって今でさえ、どう見てもお世辞にも仲良さそうには……」
「……ちょっとやめてよなりちゃん」
「は?」
「デートする子、こいつなわけないじゃん」
「え?」
「成崎と、だよ」
「……は?」
「俺がなりちゃん以外の誰と進んでデートなんかするかよ」
「ぇ……いや」
「大丈夫だよ。絶対勝って阻止するから」
「……ぉ」
俺の人権どこ行ったあぁあああっ!!!?
つーかそもそも野球だろ!?2チームじゃん!籤とかでチーム決めんじゃないの?同じチームになる可能性も充分あるじゃん!!
「あ……ははは……まぁ、対決出来る試合になればいいっすね……」
「髙橋に言っとくよ。俺と藏元くんが一緒にならないようにって」
「…………」
終わった。これで逃げ道は無くなった。
東舘さんと髙橋、藏元が出る野球。その話題性溢れるイベントは今この場にいる2Bの生徒全員が記憶しただろうし、すぐに学校全体に広まるだろう。
大観衆のいるなか、アイドル様の参加する試合で、スポーツ得意な生徒が集まるであろう試合で、平々凡々な俺が何故、何のために、そんな地獄に参加しなければ……
「……全然意義が見つからないんだけど……」
ボソッと呟いた俺は、愕然とするなかほんの僅か思った。
せめて、せめて勝てるよう邪魔にならないようにしよう、と。
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