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しかし、これは由々しき事態だ。
いつもなら様子を見ながら受け流そうと思うのだけど、今回は試合当日まで何もせず髙橋に任せきりにしていたら、今以上にまずい事になりそうな気がした。
今のうちに、話し合えるところは話し合っておこう。
というわけで、昼休み、俺は髙橋の教室の前にいるのだが……。
朝のHRでの出来事はもう既に学校中に知れ渡っていて、俺が髙橋と話をする = 試合の件 という空気になっていた。
周囲の生徒たちは何を期待しているのか、ワクワクソワソワしながら俺たちの会話に聞き耳をたてている。
こんな状態で……一体何を話せばいいのやら……話したいことの半分も話せないのでは……?
「お待たせ成崎!どうした?」
溌剌とした笑顔で登場した髙橋に目が眩む。負けるな俺。この輝きに怯んではいけない。
「あーの……東舘さんから聞いたよ。週末の、野球のこと」
「あっ、ごめん!先輩より成崎に言うほうが先だよな!ごめん!」
「それはいいけど……」
「偶々グラウンドが取れたんだよ!だから予定先に入れたんだ。成崎、その日の予定は?」
「……」
いつもならここで、ぁその日は予定あるんだよね……ごめんまた今度な、と嘘っぱちを吐くのだが……周囲の視線が凄い。
この中には東舘さんの、藏元の、髙橋の、ファンが絶対いる。俺が参加しないとでも言ってみろ。3人を侮辱した的な因縁をつけられるに決まってる。いつだって優先されるのはイケメンだ。
「……だ、大丈夫っす」
「そっか、よかった!……元気ないな?大丈夫か?」
「髙橋、その野球のチームのことなんだけどさ」
「うん。東舘先輩と藏元を別にすればいいんだろ?先輩から言われたよ」
早いな。どんだけやる気なんだよ。まぁ元々運動好きな人っぽいし、藏元とまた試合できるって、本心ではちょっと楽しんでたりして。
「それはそうなんだけど……他のメンバーってどんな感じなの?」
「野球部何人かと、サッカー部とバスケ部も何人か参加予定」
「……めっちゃ運動部じゃん。俺超アウェイじゃん」
アウェイどころか、立ち入り禁止区域だろ。どう考えてもその中に俺って異物そのものだろ。
「あははっアウェイとかねぇよ!ただの遊びだよ!俺、成崎と遊びたいだけだし!」
「お……おぅ……」
君ほど純粋に“遊びたい”と言ってくれる人もなかなかいないよね。
「どうした?何か不安?」
「……大丈夫……かも」
「かも?」
断ることは出来なかった。だからせめてチームのパワーバランスの相談をしようと思った。だって、東舘さんと藏元は別々になるとしてどっちかに髙橋が入ることになる。だから彼らと張り合えるような、スポーツが得意な人がもう一人いるべきなのでは、と思ったんだけど…………めっちゃ無駄な心配だった。
俺は俺の心配しとけ。超凡人。
「……なんか、メンバー足らないかなーとか思ったけど余計な心配だった」
「あーそういう心配か!ありがとう!それなら大丈……夫……」
ふと、髙橋の笑顔が消えて何か考え始めた。
「?…髙橋?」
「……成崎がいるなら……」
「?」
俺?何?俺がいたらやっぱまずいって話?それには激しく同感。
「……メンバー、もうひとり誘ってもいい?というか、力貸してくれない?」
「……ん?」
今からもうひとり誘おうが、現状とそんなに変わらないだろう。でも力を貸すって何?俺はそんなに力持ちじゃないぞ。
下らないボケを心のなかでかまして聞き返すと、髙橋は俺の腕を掴むとその場から歩き出した。
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