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それから週末を迎えるまでの学校生活は、まともに過ごせる筈もなかった。 心配と不安だらけで、心此処に在らず、の状態だった俺は学校に8時丁度に登校して驚愕されたり、移動教室の連絡を忘れ2B全員が欠席扱いになりかけたり、掃除中にゴミ箱に引っ掛かってゴミをぶちまけ俺はそのまま近くにいたズッキーの背中に勢いよく頭突きしたり、藏元に向かって「先生!」と大声で呼び間違えたりした。 普段ならこんな失敗しない。地味に地味に過ごして、みんなの補助に徹して、目立たないことを第一にしていたのに……超目立つ馬鹿をやりまくった。 どんなに落ち着こうとしても日に日に近付いてくるその日を思うと、正常でいられるわけがなかった。 そして迎えた、試合当日。 開始後すぐベンチに下がる予定ではあるけど、取り敢えずジャージに着替えてグラウンドに向かう。 「……なんか……テンションいつも以上に低いね。大丈夫?」 「大丈夫なわけないだろ……」 「…………まぁせっかくだし、どうせなら楽しもうよ」 一緒にグラウンドに向かっていた藏元がそんな呑気なことを言ってくる。 あーやだやだ。全然分かってないな、ジャージ姿でも格好良すぎるこの王子様は。運動神経抜群の集団のなかに凡人がひとり放り込まれるんだぞ。迷惑かけないように、出来るだけ足引っ張らないように、プレッシャーが凄いんだぞ。それにプラスして、今回は…… 「試合頑張ってねー!」 「僕たちも応援してるからね!」 ……これだ。 俺たちとすれ違う生徒たちが、みんな一言声をかけてくる。応援という名の、圧。 “推しに迷惑かけんなよ” “ただでさえ目障りなのに余計なことするなよ” “アイドル様に触れんじゃねぇぞ” 俺には全部そう聞こえてくる。試合メンバーと観客、両方に公開処刑されてる気分だ。 石階段を登りきり、グラウンドを見渡せばこちらに気づいた髙橋が大きく手を振ってきた。 「来た来た!待ってたぞ!」 「お待たせ。成崎がいつもより歩くスピード遅くてさ」 「余計なこと言わなくていい」 笑う藏元の腕を小突きながら、髙橋の回りに集まっていたジャージ姿の集団を盗み見る。 そいつらはみんな、背が高くて、ちょっと肌が焼けてて、爽やかで……当然のようにイケメンばかり。 みんなジャージ姿なのに。お洒落に着飾ったりしてないのに。なんで輝いてるんだよ。 「……?成崎、大丈夫か?怒ってるのか?」 「怒ってない。不満なだけ」 「何が?」 「人種について」 「……え?」 髙橋が目をパチクリと瞬き俺に聞き返していたとき、イケメン集団のなかのひとりが歩み寄ってきた。 「君が噂の“成崎”くん?」 「……噂?」 「俺のことは知ってるかな……?俺も2年なんだけど。久道くんと同じクラスなんだ」 「……噂?」 「こんな凄い試合に参加できて嬉しいよ。成崎くんのおかげだね」 「……噂?」 俺なんかが、俺ごときが、噂?何それどんな噂?詳しく教えてほしいんだけど。 そればかりが気になって目の前で喋る癒し系イケメンの話は殆んど耳に入ってこなかった。

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