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「それよりさーなりちゃんいつまでそいつの手握ってるつもり?」 「ちょっと……その言い方やめてくれます?ただ勢いで掴んだだけっすよ」 「……でもそろそろ離そっか」 東舘さんの無駄に意味を含ませる言い方に反論していると、珍しく藏元が同意するように俺の手を水谷くんの手から離した。 「なりちゃん、こいつのこと気に入ったんだぁ?」 「!?あのっ、すいません俺はそんな」 水谷くんを、凍てついた視線で見下す東舘さんは当然怖い。そんな光景見てられなくて、水谷くんを庇うように東舘さんの前に立つ。 「……ぁああのですね!東舘さん」 「……何?」 「俺に俺のことで何かするのはまぁ……出来る限り我慢するとして……俺の回りに何かするのは、止めてください」 「……」 「この人に何かするなら、俺まじでこの試合から抜けます」 ……俺のせいで水谷くんは貧乏くじ引いたわけだし。俺が抜けたらオモチャが無くなってこの人たちも困るだろうし。 俺にだって、この不運な後輩を守るくらいは出来る筈だ。 「……なりちゃんそういうとこあるよね」 「……は?」 「……まぁいいや。さっさとじゃんけんしちゃってぇー」 もう興味がなくなったのか、東舘さんはすんなり引き下がり藏元とじゃんけんを始めた。回りのみんなも漸く安堵してそれぞれじゃんけんを始める。 「……ほんとすいません。出来る限り力になるので、もしこの試合のせいで嫌がらせされたら言ってください」 「そんな……俺なら大丈夫ですから。先輩は気にしないでください」 「……」 水谷くんはめっちゃイケメンだ。今は1年生で何かの役職に就いているわけでもないからあまり目立たないんだろうけど、ファンもそれなりにいて来年辺りには間違いなくアイドル様の仲間入りだろう。 だから他の生徒から苛めなんてことはまず無いだろうけど…………。 けど。 東舘さんは別だ。あの人は何にキレるのか分からない。今まで関わってきた経験からそう感じる。だから早めの防衛策。 「……でも、」 「ん?」 「すいません。先輩、……普通の人っすね」 「……ぁ、うん」 凡人だって?まぁそうなんだけど……イケメンに言われると余計グサッと…… 「あっ、あ、ちが、違うんですよっ」 「違わないっすよ、はは」 「そういうことじゃなくて、いい人だなってっ」 「フォロー手遅れっすよー」 「いやフォローとかじゃっ……!も、もっと威張ってる人かと思ってっ」 「……?」 水谷くんの言動に半笑いのまま、言葉を飲み込んだ。慰めではないのか? 「あの藏元先輩の親友で、副会長から告白されてて、生徒会長に大切にされてて」 「……訂正したいです。告白じゃないです。脅迫です。大切に、じゃないです。ただの普通の友だちです」 「……なのに、謙虚っす」 「水谷くん、美化する癖でもあるの?」 「ぷははっ!そんな癖ないですよ」 申し訳なさそうな顔、オロオロした顔しか見せなかった水谷くんが漸く笑った。イケメン様だけど、その笑顔はとっても可愛げのあるもので、笑ってもらえてちょっと嬉しくなる。 俺も連れて少し笑いながら拳を出す。 「……じゃあ、じゃんけんしましょうか」 「ぁはい」 「何を出してほしい、とか、水谷くんの希望ありますか?」 「ぇそれって……」 「はい。不正です」 「ぷはは!それは駄目っすよ先輩!」 俺のせいで面倒事に巻き込まれたのに、俺を責めるどころか、正々堂々かよ。 「というか、敬語やめてくださいよ。先輩なのに」 「あー……これは反射的に……なので気にしないでください」 「……分かりました。じゃあ、タメ口で話してもらえるよう頑張ります」 「?」 「仲良くなれれば、敬語外れますよね?先輩が藏元先輩と話す時みたいに」 …………感動。強引に、強制的にではなく、自分が努力するなんて……いくらお世辞でも、この試合だけの付き合いの人にここまで気遣えるなんて、この子ほんとに素晴らしい! 「おーい成崎ー!まだ決まんないのかー?」 「ぇ……あ」 髙橋の呼び掛けで回りを見れば、他の全員は既にじゃんけんを終えていた。 「ごめんすぐ決める!……じゃあ、俺が出したいの出しますよ?」 「はい。大丈夫です」 拳を水谷くんに出せば、また笑顔を見せてくれた。 「……いきます」 「ぷふ……はい」 真剣な俺と、笑いを堪える水谷くん。 運命のじゃんけんをついに始めた。

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