179 / 321

179

そして、じゃんけんした結果…… 「……勝っちゃいました」 水谷くんは自分の掌を見つめて呟いた。 その言い方、実は負けたかったのか?だから何出してほしいか聞いたのに…… 「俺が勝ったことにしましょうか?」 「!いえ、そういうことではないので」 「……大丈夫ですか?」 「成崎先輩は、ほんと、お気になさらず」 「…………」 なさらずって……本当に大丈夫かな。 「成崎どっちだったー?」 「あー……俺負けたー」 「!」 「!?」 髙橋の問いかけに素直に答えれば、ザワつくイケメンたち。東舘さんが藏元を睨んだ。藏元は冷ややかな目で見つめ返した。 そんなふたりを全シカトして、宮代さんは肩を回した。 「成崎は藏元と同じチームだな」 「そうですか……宮代さんはどっちすか?」 「俺は東舘と同じチームだよ」 「えっ……まじすか……」 「なんだよ成崎その反応はー!俺が成崎と同じチームなんだぞー!不満かぁ!?」 俺が微妙なリアクションをすれば、それに直ぐ様髙橋が反応してきた。 「不満ではないけど…………勝てんの?」 「最初から結果が決まってる勝負なんて無いんだぞ!」 「……うん。そうなんだけどさ」 言ってることはスポーツマンぽくて、名言的な格好良さもあるし、キメ顔するのもご自由にどうぞなんだけどさ。 「東舘さんと宮代さんだよ?……3年だし……」 「学年は関係ない!!」 「……ただの3年じゃないよ。あのふたりだよ」 「……関係ない!」 ぁ、一瞬詰まったよ。 「それと、」 「まだあるのかよ?」 「……俺がこっちに入るんだよ?」 「………………ちょっと不利かも」 「おいこら。そこだけ素直に認めるのか」 「はははは!冗談だって!楽しもうな!」 楽しめる状況になればいいけど。俺のせいでこっちのチームは悲惨なことになる予感。 「……じゃよろしくお願いします」 「ぁはい。水谷くん、何かあれば言ってください」 「ふっ……大丈夫っすから」 迷惑をかけてしまった水谷くんと挨拶をして、その背中を見送る。俺と同じチームになる人たちから怒られないといいけど……。 「はぁ……」 「成崎」 「おーっす藏元ぉ」 隣に来た藏元は、去っていく水谷くんの背中を見つめると、グローブで口元を隠した。 「いい人だったの?彼」 「あ?あぁ、うん。めっちゃいい人。だから余計俺とじゃんけんとか可哀想で……何もないといいけど」 「へぇ」 「ちょっと仲良くなれた気がしてたんだけど、これで恨まれたら水の泡だよな」 「仲良くなったの?」 「うーん……俺の自己満か?……いや、硬い表情だったんだけど、笑ってくれたからさ、ちょっと嬉しかっただけ」 「……へぇ」 「まぁこの試合終わったら関わること無いだろうけど」 あっちは間違いなくアイドル様候補。俺とはほとんど無縁な人種だし、さっきまでの数分の会話で笑ってもらえただけで充分なのかもな。 自己解決した俺の耳に、藏元はグローブで隠したまま口元を寄せてきた。 「あっちのチームに入りたかった?」 「……ん?」 「楽しかった、仲良くなりたいって、目の前で見せつけられるとちょっと悔しい」 「なっ……み、見せつけてなんか……」 「俺のことも見てよ」 「っ……!?」 藏元の目が、あの綺麗な目が、楽しげに、悪戯っぽく、俺を映している。 「ど、どうせ……」 「?」 どうせ、試合が始まったら、藏元に目がいってしまう。水谷くんの笑顔は確かに嬉しかった。でも、藏元の笑顔、存在は誰とも比べられない、俺にとって一番…… 「お前には魔力があるし、それ使うんだろ」 「??魔力?」 藏元の魔法の防ぎ方なんて、俺は知らない。 小首を傾げた藏元の背中を思いきり叩いた。 「ぃ゛!?」 「せいぜいキャーキャー言われてろ!」 捨て台詞を吐いて、藏元の魔法領域から脱出した。

ともだちにシェアしよう!