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「よし!これで行こう!」
声高らかに髙橋が告げた。
スポーツに縁の無い俺には、みんなが何を思ってどういう策略でこうなったのか、その考えを汲み取ることは出来ない。
でも、何となく感じる。
藏元がピッチャーになったのは、皆がその姿を見たいからって理由もあると思う。そしてスポーツセンスの塊、髙橋は三塁を守ることになった。観客に向かって手を振っている様子を見るに、プレッシャーは皆無らしい。それどころか、場馴れ感が溢れ出ている。
そして俺は、まさかのセンター。……あれね、後ろの真ん中の守備ね。有り得なくない?レフト側ライト側に走ることもあれば、前後に走ることもあるポジションじゃん。無理だよ。俺なんかが担えるポジションじゃないよ。
つーか、ベンチに俺より遥かに出来そうな人たちいるじゃん。皆イケメンだし。
その人たちを出してよ。観客からの憎悪の視線が凄いんだけど。なんで俺のベンチ希望意見は完全無視なわけ?
「大丈夫だって!レフトライト、ついでにセカンドまで、成崎のフォローに入ってくれるから!」
「……有り難いよ。至らない俺からすれば、フォローしてもらえるなんてとっても有り難いことなんけどさ?フォロー必要だって分かってるなら最初からフォロー無しで戦える人を立たせれば良くない?」
「まだ言ってるの、成崎。諦めなよ」
「お前まで言うか」
俺の文句というか、……正論だよね?正論を藏元がやんわり止めた。そのドSな微笑み、さっさと仕舞えよ。髙橋は横で見とれてるけど、俺は騙されねぇぞ。お前、何企んでんだ。
「藏元、この試合に勝つ気あるの?」
「うん。勿論。副会長には絶対負けないよ」
その言葉に、ふたりの賞品を思い出し、言葉を詰まらせる。
……一応……東舘さんからま、守ってくれてる……のか……?……ぁ、いや別にキュンとかしてないから。そうなのかなーって、ちょっと深読みしちゃっただけだから。
「……、なら分かってんだろ。東舘さんだけじゃない、あっちには宮代さんまでいるんだぞ。あのチームに勝つならちゃんとしたメンバーで」
「その前にこの試合、成崎が抜けると少なくとも3人、一緒にやめるんだけど?」
「……おぉお、またパワハラかよ。俺に責任押しつける気か」
「そうなったら観客の人たちは、がっかりするんだよね?多分」
「…………」
にこっと笑った藏元は、今の俺には悪魔に見える。俺の逃げ道を完全に塞いだ王子様は、髙橋に始めようかと微笑んだ。
「よしやろう!おーいっ!みんな!始めようぜぇえ!!」
髙橋は心底楽しそうに両手を頭上に掲げて、参加者全員に呼び掛ける。近くにいると耳がキンキンして、軽く塞いだ。
「……嫌なとこ、突いてくるようになりましたね藏元くん」
俺が不満を溢せば、髙橋が少し離れた隙に、藏元は毒気の無い眩しい笑顔を向けてきた。
「それだけ、成崎を遊びに誘うことに必死なんだよ」
「…………ぁ、そ……」
また魔法をくらいそうになって、目を反らす。
遊べるのは……まぁ、嬉しいけど……他の遊びにして欲しかった。外じゃなくて、暑くなくて、動かなくて、煩くなくて、人少ない遊びがよかった。
……俺って、思ってる以上に体力無い?
自分の思考にガッカリした。
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