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「じゃあ、皆せいれーーつ!!」 髙橋が弾む声で皆に呼び掛けた。 両チームが向かい合い、整列する。観客の生徒もしんと静まり返った。両チームの間に立った審判役の3年生らしき人が口を開いた。 うわぁ……審判までいたら、なんか更にマジの試合っぽい雰囲気になるじゃん。勘弁してよ。 「ではこれより、Aチーム対Bチームの試合を」 「ちょっと」 「……なに?」 審判の言葉を遮って、審判に向かって挙手する東舘さん。 「AとかBとか、センス無いね」 ……そこ?どうでもよくない? 「つーかなんでこっちがBなわけ?」 ……AとBすら、優劣として認識するのか。 「そんなことは別にいいじゃないですか」 誰か東舘さんに突っ込んであげて、と願っていたとき素晴らしい一言が聞こえてきた。……のだけど、その声の主が、まさかの藏元だった。 ……まぁいいや。取り敢えずチームの名前なんかどうでもいいって言ってやってくれ。 「こっちが“A”で間違ってないですし」 「!!!?」 ちょおおおぉおっ!?藏元くん!?何言ってんの君!?東舘さんをとめるどころか、東舘さんに喧嘩売ってるよ!!いつから煽りキャラになったの!?その眩しい作り笑顔を今すぐ引っ込めろ!!! 「……ふふ。ほんと生意気だね藏元くん」 東舘さんも、めっちゃ綺麗な作り笑顔をしてる。他の人たちは恐怖半分、好意半分で止める気ゼロだ。髙橋は、このふたりにもの申すくらい出来るやつだけど、状況を理解できているかが問題だ。 「うーん……確かにそうっすね。チーム名も大事な気がします!」 ……ほらやっぱり。 こうなると、頼れるのは貴方様だけなんです! 俺が救いの意味を込めてチラリと見ると、頼れるお兄様は小さくため息を吐いて東舘さんの肩を叩いた。 「東舘」 「何、ミヤ」 「AとBが嫌なら」 「?」 「NとSならどうだ?」 「えぬとえす?」 ……?何それ?磁石ですか?AとBで優劣を意識したんだったら、NとSでも同じなんじゃね?とっても真面目に東舘さんに提案している宮代さんだけど、全然いい案には…… 「いいね」 いいの!? 納得した東舘さんに驚愕する。そして何故か藏元もその案を受け入れた。 俺と同じく理解できていなかった髙橋が、首を傾げて宮代さんに問う。 「なんすかそれ?NとSって」 「ん?……あぁ」 ゆっくりと、俺と髙橋を交互に見た宮代さんは優しい口調で教えてくれた。 「NabobのNと、StrongのSだよ」 「…………」 「おぉお!なんかよく分かんねえけどかっこいいぃいっ!!」 髙橋は素直に信じたけど、俺は嘘だと思ってしまっている。だって、そんな意味の込もった言葉を、NとSだけで東舘さんに伝わると思う?N、Sから始まる単語なんていくつあると思ってんの。頭文字だけじゃ絶対伝わらないだろ。 そう思った俺は鵜呑みに出来ず、なんとなく誤魔化されたんだなって結論に至った。 「じゃあ……えっと……Nチーム対Sチームの試合を始めます」 「しゃああっ!!負けませんよ先輩たちぃい!!」 「ぶっ潰すぞぉ」 髙橋のやる気溢れる宣言に、東舘さんはにっこり笑って語尾にハートをつけてきた。 先行き不安な試合が、ついに始まる。

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