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それぞれが、決められた持ち場に立つ。始まった試合に観客たちが大歓声を送る。
キャッチャーと軽くキャッチボールをした藏元は暑さなど微塵も感じさせない爽やかな笑顔でチームメイトを見渡した。
アイコンタクト、と言えばいいんだろうか。藏元と目が合うと何かを感じるのか、皆は頷いたりガッツポーズしたり万歳したり照れたり……様々にリアクションを返していた。
そして、藏元の視線は俺にもきた。
……な、何かすべきだよな??俺だけスルーじゃ批判殺到だよな?素人丸出しだよな?……取り敢えず、分かったふりでもしとくか。
「……」
俺は腕を上げて、大きく丸を作った。やる気はあるよ、とか、やってやろうぜ、みたいな前向きな意味を持って、丸を作ったつもりだった。
「大胆だねーっ」
藏元から視線を外したら、ライトのチームメイトから意味不明な茶化しを受けた。
「何がですか?」
「あっ、そういう意味じゃないの?てっきりそうなのかと思ったよー」
「…………」
絡んだことのない人から、よく分からない絡まれ方をしても困るだけなんだけど……。炎天下のなか、ただでさえ体力がすり減っていっているのに余計な絡みで悩ませないでほしい。
眉を寄せてバレない程度にため息を吐いたら、そのタイミングで歓声が上がった。
バッターボックスに1人目が立っていた。
ユニフォームなんか勿論着てない。なのにその素振りは、俺からすれば超プロっぽくて、遊びの野球には思えなくなってくる。藏元はそのバッターと知り合いなのか、少し談笑してから投球の姿勢に入った。
髙橋に、色んな部活の練習に連れ回されてたっぽいし、運動部に知り合いがいても当然か。
試合が始まって1打席目ということもあって、藏元もバッターも“肩慣らし”くらいの雰囲気だ。
俺からすれば充分速い球を、藏元は長い手足を自在に操っては投げ込んでいく。
それをバッターが、たった1本の棒切れ……あ、バットね。バットに当てては打ち出した。
ボールはコロコロと転がってファーストがキャッチし、ひとつ目のアウトを決めた。
キャーと、予想の範囲内で歓声が上がった。
この調子でささっと終わらせてくれ、藏元!
と思った矢先、次にバッターボックスに立ったその子に、俺は心臓が萎縮した気がした。
そんなに活発な性格ではないのか、落ち着きのあるその表情に笑顔はない。
「……ハッ!ま、まさか、もう既に嫌がらせをっ……!?」
途端に心配になってきて、今すぐバッターボックスに立つ水谷くんを問い詰めたくなった。
どうか、あまり酷い仕打ちは受けていませんようにっ……!
試合そっちのけで祈るポーズを取れば、少し離れたお隣さん、ライト守備のチームメイトが焦燥の声を上げてきた。
「ちょ!ちょいちょい!そのポーズやめなさい!」
「……なんで?」
ほんとこの人の言ってること意味分からん。
首を傾げれば、慌てた様子のライト守備さんはどこかを必死に指差した。
「ん?」
その指の示す先を素直に見てみれば、藏元とガッツリ目が会った。
なんか、目が……怖い。
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