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一塁に進んだ水谷くん。 アウトはまだ一回だけ。そして、次にバッターボックスに現れたイケメンさんは……。 割れんばかりの大歓声。 かっこいいよな。何してても男前だよな。 ……ぁ、料理してるときだけは、面白可愛い人だけど。 宮代さんはその場に立つと、バットを構えることなく藏元を見据えた。特に何も言わない。微動だにしない。 この場にいる皆が疑問に思っただろう。 構えないの?って。 「投げろ、藏元」 「……?」 そう告げてきた宮代さんは、尚も構えない。疑いながらも藏元は、そのままの宮代さん相手に投球した。 ボールはバットに阻まれることなくキャッチャーのグローブに収まった。 「…………」 「…………」 「……?」 「てめ、ミヤーーッ!やる気出せよ!何してんだっ!」 あまりのことに、東舘さんがベンチから普通に怒鳴った。その苦情に宮代さんはしれっと言い放つ。 「東舘を、勝たせたくねぇ」 「……え?」 「!?」 ザワつく皆、宮代さんは腰に手を当てて東舘さんを見ると、言葉を続ける。 「チームには悪いけど、東舘に賞品は渡せない」 あー……ついに聞いたっぽいな。……関係無いけど、立ち姿がかっこ良すぎる……! 「……生徒会長がそう思ってくれると、俺も助かります」 状況を素早く飲み込んだ藏元は、宮代さんに小さくお辞儀すると遠慮無しにニ投目を投げた。 「……確かに利害は一致してる」 「はい。ありがとうございます」 「けど、」 礼儀正しく挨拶して、藏元は宮代さんに最後となるボールを投げた。 ボールはまた、真っ直ぐにキャッチャーのグローブに収まるかと思ったその直前、瞬時にバットを構えた宮代さんは化け物並みの反射神経の持ち主だった。 バットに跳ね返された球は青空に綺麗に上がった。 「……まじかよ……怖……」 寸前で構えたバットなのに、藏元のボールを当ててしまった。 なんて恐ろしい人……。 弧を描いて落ちてきた球はレフト守備の人がキャッチした。バットを肩に乗せて立ち去ろうとした宮代さんは藏元に微笑んだ。 「東舘には勝たせたくないけど、藏元にすんなり負けるのも嫌だな」 「……なるほど」 男前王子様と、爽やか王子様の殺伐としたやりとりに、阿呆ばかりの会場はピンク色の空気になった。 「……アイス食べたい」 色々私情が混ざってるこの試合、体力も思考も序盤から使いすぎて最早疲れた。冷たくて甘いもの食べたい。騒ぎたい人は騒いで、休みたい人は休ませてほしい。 俺のサボりたい意識が目覚め始めベンチや日陰に視線をさ迷わせていたとき、四人目がバッターボックスに立った。 「なりちゃーん!大丈夫ー?ちゃんと集中しなさーーいっ」 「…………」 普段だらけててチャラチャラしてるくせに、よく分からないところで元気な東舘さんは本当に謎に満ちている。 「距離遠いからって、ライトのそいつとイチャイチャしないでよねー!?」 「はぁ!?してねぇっすよ!言い掛かりやめてくださいよ!!」 大声出すとしんどい。あぁ、そうだ。さっきみたいに、俺の代わりに全身全霊で否定してよ…… ライト守備さんの方を見れば、彼はブルブルと震えながら小さく首を振っていた。 ……さっきと真逆になってる。 「かぁわい……ぜってぇデートする」 「絶対させません」 ライト守備さんに気をとられていた俺は、東舘さんと藏元のやりとりに気付かなかったし聞こえなかった。

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