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「さぁて、エンジンかけてくぞぉ」
「俺はもう若干かかってますよ」
「えーまじでー?」
「予想外のところから、お気に入り候補が現れたので」
バットを構える東舘さん、顔だけを東舘さんに向ける藏元。
ふたりとも、唇が動いているから何かを話しているんだと思うけど、俺のポジションからじゃ全く聞こえない。
「とりあえず、皆倒しておかない、とっ」
何かを言いながら投げたボールは、1球目から東舘さんのバットに当たった。
「!!」
打ち上げられたボールは線のギリギリ外、ファウルだった。
「……速いけど、まぁ想定内、かなぁ」
「……そうですか」
「てゆうかさぁ。藏元くん、なりちゃんと“トモダチ”なんだよねぇ?」
「……」
「お気に入り候補とか、皆倒すとか……もう片足突っ込んでない?」
「……何の事でしょう」
「……えーまさか、もう手遅れ、なんて言わないよね?」
「……お喋り、好きですね」
「ふふっ」
内容は全く聞こえないのに、全然楽しさを感じないふたりの会話。あれだけ作り笑顔うまいくせに、ふたりの今の表情は死んでる。
一通りの会話の区切りは着いたのか、また藏元は容赦なく投げた。
1球目から当てられたんだ、今度は確実にっ……
そう思った俺は、その光景に目も口も開けたまま固まった。フルスイングした東舘さんのバットは空を切り、ボールはキャッチャーのグローブの中に収まっていた。
「……??」
何が起こったの?若干速度上がったとか?そう言われれば速かった気も……
「……かっこいいぃ」
「……?何?何が起きたんすか?」
分かってるっぽいライト守備さんの呟きに、俺は振り向き説明を求める。
「……ぁ……話しかけないでっ」
「なんで!?散々話しかけてきてたのそっちでしょ!?急にドライですか!?」
「……ぁ……あ……あの……」
とても迷惑そうにオロオロキョロキョロしてるライト守備さん……ちょっと傷つくんだけど。
「……あの、……はい、今の説明だけもらえれば黙るのでっ」
「く、藏元くんが、カーブ投げたんだよっ!」
「!!?」
カーブ!?てことは、変化球投げたの!?すごっ!!やばっ!!
涼しい顔してキャッチャーからボールを受け取る藏元を驚愕の目で見る。
こんなこと、本人には絶対言えないけど……それでも、やっぱり思っちゃうよ……お前本当、スポーツやったほうがいいのでは……。
「……へぇ。そういうのも、投げれるんだ」
「……」
「やっぱお前、ムカつくね」
「あなたは絶対、仕留めたいので」
再び投げられた球は、またもやバットに当たることなくグローブに収まった。多分東舘さんのバッティングには、カーブを見てから少しの迷いがあるんだろう。
「……で、前回はどんなご褒美貰ったの?」
「……」
「今回はどんなご褒美要求するの?」
「うるさいですよ」
「俺の押しも、お前の要求も、ほとんど一緒だろ?」
「……黙れ」
藏元からは、かなり離れたところにいる俺。それなのに、その横顔はかなり怖くて、指先がビクりと反応した。
怒りを込めた1球、まさにそんな感じの球は東舘さんからストライクを奪った。
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