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「3アウト、チェンジ」 審判の声が響く。会場には歓声と拍手が響く。ベンチにチームメイトたちが向かっていくなか、俺もなるべく皆に近づかないように進む。 何故って?皆イケメンだからだよ。理由はもう、分かってくれ。 「成崎先輩」 「?」 トボトボ歩いていると呼ばれた名前。振り返ると、そこに立っていたのは水谷くんだった。 バッティングの時とは違い、その顔には微笑みがある。 「さっき、ありがとうございました」 「?……あ、そうだ。あざっす、の意味なんですが……?」 「?誉めてくれましたよね?俺のこと」 「……誉め……ましたっけ?」 見とれた気はするけど、誉めた覚えはない。そう言った俺に、水谷くんは眉尻を下げて苦笑いした。 「えぇえ?スゲーって、言ってくれてませんでした?俺の聞き間違いでした……?」 「ああっ……言いました……けど、ただ単に感心しただけで。でも、俺みたいな素人に誉められても……」 「成崎先輩みたいな人の、企みのない素直な誉め言葉は嬉しいですよ」 「企み……?君、普段どんな人たちと一緒にいるんですか……」 「ぷははっ。俺の人間関係、成崎先輩のなかでは印象悪くなりましたね」 「ぁいや別に、」 「いえ、構いません」 「……はい?」 「俺の人間関係を知ってもらうって事を口実に、また話す機会が出来ましたから」 「……」 ……やばい。水谷くんにとっては気遣いと思いやりの一言なのに、“また話したい”と言われ慣れてない俺からすれば何度言われてもやっぱり嬉しい。 ……いやいや、誤解するな俺。相手は将来有望アイドル候補。ここは慎重にっ…… 「何の話?」 突然、肩が重くなった。左肩の上には手が乗っていた。右少し上を見上げれば、輝く笑顔を添えた藏元がいた。 「藏元……ぇと、今」 「応援してくれたので、お礼を」 「応援……あぁそうだったね。」 「成崎先輩、優しいですよね」 「うん。成崎は、皆に優しいんだよ」 「???ちょっと、ふたりとも……優しいとかじゃなくて、俺はただ」 「だから、誤解しちゃ駄目だよ」 「誤解……ですか」 誤解とは?何をどう誤解するんだろうか……。 「成崎、ベンチに行こうか」 「……ぁ……でも……」 悩んでいるような表情の水谷くんだけど、何も言ってこない。藏元との会話はこれで終わったってことでいいのか? 俺が水谷くんの様子を伺っていると、肩に置かれたままだった藏元の手に、ほんの僅か力が籠った。 「疲れてるでしょ?ベンチに行って、少しでも休もう?」 「……ん?」 「ほら、成崎はただでさえ体動かすこと避けてきたわけだし、」 「……うん。……だから、ね」 何故そんなにベンチに向かうことを急かすのか、分からないけど……取り敢えず、今、俺は言いたいことができた。 バシィッ 「い゛った……!?」 「最初からベンチ希望だって言ってたでしょーがっ!!!」 藏元の背中を思いきり叩いた。

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