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「痛いよ……何も叩かなくても……」 「喧嘩売ってきたのはそっちです」 「ごめん……焦りすぎだね俺」 ふぅ、と呼吸を整えるための一息を吐いた藏元に首を傾げる。 ベンチに移動するのだって、他の皆も意外とダラダラと歩いているわけで、焦るほどじゃなかったと思うけど。 「……つーか藏元。お前野球も経験者なわけ?」 「?経験者というか……少年野球とかで、人足らないときに参加してたくらいだよ」 「うわっうざ」 「えぇ!?なんで!?」 「少ししか噛ってないよでもカーブくらい余裕だよってか。少しは遠慮しろ!!」 腕を組んで、舌打ちして、今君に苛ついていますという分かりやすい意思表示をする。 「何で怒ってんの……?というか、成崎、カーブ見分けられたの?それこそ凄いね」 「うるせぇ馬鹿にすんな。俺が分かるわけないだろ。ライト守備さんに教えてもらったんだよ」 「……馬鹿にすんなって……分かってないんじゃん」 「はいぃ??何か仰いました?」 にこりと笑って、藏元の腕をつねった。 「痛っ、ごめん何でもないからっ」 「藏元こそスペック高すぎんだよ。魔法の他に、近接もできるとか初期設定どうなってんだよ」 「??……何?」 きょとんとして、俺の謎の発言に頭を悩ませる藏元。しかし驚くことに、俺の発言に返せる人がいた。 「藏元先輩はハイスペックですから、初期には出てこないレアキャラじゃないですか?」 「!それだっ!」 人差し指を立てて、水谷くんの素晴らしい発想を採用する。水谷くんは笑いながら、ですよね、と意見の一致を認めた。 イケメンスポーツ少年だと思っていたのに、意外だ。 水谷くんはゲーマー?それとも俺と同じでファンタジーのジャンルが好き? 「何の話?初期?レアキャラ?」 「メインストーリーで出てくるんすかね?それとも隠しストーリーですかね?」 「戦闘スキルが2種なら激レアですから、間違いなく隠しですよ」 「やっぱそっすよねー!」 これほど会話が成立するとは思っていなくて俺は水谷くんに親指を立てて喜びを伝えた。藏元は面白くなさそうに俺たちを見ているが、ちょっとスルーしてしまうほど俺は楽しくなっていた。 それが、ちょっと行き過ぎた。 「そんなキャラが手に入ったら、闇魔法と光魔法を剣に宿して空間分断してみたいですっ」 「……?」 「え?」 「……ぁ」 ……そう。ファンタジーが好きなやつは、楽しくなると、調子に乗りすぎると、現実と幻想が混ざってしまうことがある。 俺は今レアキャラを頭のなかで想像し、動かし、そして重ねてしまった。 大好きな小説の世界のシーンと。 眉を寄せる藏元と、話題に乗れていた水谷くんすらもポカンとしてる。完全に、白けた。 やべぇ……想像でしかないレアキャラの、詳細のシチュエーションを突然言われてもそりゃポカンとされるよな。どうしようこの空気……俺めっちゃ痛いやつじゃん……。 「なら俺は、反魔法で時空を歪ませる、かな」 「っ……!」 俺の想像を、シチュエーションを理解した上で、完璧な返答をされた。 この白けた空気と俺の焦燥をまとめて救済してくれたその声の主を振り返る。 「宮代さんっ……!!」 「俺もあれには憧れる」 ですよねーーー!! 俺は拝むように宮代さんに手を合わせた。

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