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我が校の生徒会長様を、役職名も“様”もつけず、更には下の名前で馴れ馴れしく呼んだその人。
“継くん”の声はグラウンドに響き渡り、この場に集まった大勢のファンたちの怒りを買い、先程までの盛り上がりは一瞬にして消え去り、しんと静まり返った。
……となるのが本来の流れなんだけど。
今回ばかりは違った。宮代さんを呼んだその人が、それ相応の人だったから。
「……あの人、誰?」
藏元が、小声で聞いてきた。
「……図書委員長の、……亀卦川 様」
「……ぁ。その人ってあの時の、」
「うん。夏祭りで噂になってた人」
誰もが認める美人の亀卦川様が、宮代さんを何と呼ぼうと誰も文句なんて言えないんだ。
俺はバレない程度に宮代さんを盗み見る。
微笑んで、手を振り返している。
宮代さんは、ファンに対してそんなことしない。友達にだけリアクションを返す。つまり、亀卦川様は、宮代さんにとって煩わしい存在ではない、ということ。
「見て見て!亀卦川様が外に出て来られるなんて珍しいねー!」
「やっぱり噂は噂じゃないんじゃなーい?」
観客たちが、そんなことを囁いている。
……だよね。そう見えるよね。このふたりならかなり有り得る話っぽいもんね。でもそれは、
「……宮代会長と図書委員長って、付き合ってるの?」
「!!!」
耳元でサラリと呟かれた疑問に、俺自身も吃驚するほど俺の肩が揺れた。
「……成崎?」
「おいっそれ絶対言うな!」
「え?」
「どんなにそう思っても、絶対に、口が裂けても、今後絶対に─」
「なぁにを、どう思うってぇ……?」
「ヒッ……!」
藏元に詰め寄って言い聞かせていたとき、背後からズシリと肩に腕を回されホラー映画のような台詞を囁かれた。恐怖で、横にあるであろう宮代さんの顔が見れない。
「覚えてるよなぁ、優」
「っ、ハイ……勿論でございますですっ……!」
「優……?」
藏元は宮代さんの名前呼びにまたも不快そうな顔をしたが、今はそれどころではない。
「じゃあ覚えていることを前提に聞くぞ。何を思ったんだ……?」
「ぉ、大勢の誤解の声に対して、私の心中でではありますがっ、否定をしておりましたっ……」
「あの、宮代会長」
「!!待てっ、藏元ストップ!」
頼むから今は余計なこと言わないでくれっ!でないとまたあの時の二の舞っ……
「ベンチ、少し急ぎましょうか」
「……あ」
「……あぁ。そうだな」
気づけば、もうほとんどの選手が移動を済ませていた。相手チームからは、まだ?という視線を犇々 と感じる。
速やかに移動することになり、俺から離れた宮代さん。とてつもない緊張と冷や汗から解放された。
駆け足でベンチに向かい始めると、俺のスピードに合わせて藏元が隣を走ってきた。そして、無表情のまま、俺の身長に近づけるように背を丸めた。
「……で、今度はどんな秘密の話?」
「……ん?」
「ま、どうせ俺には関係ないんだろうから、別にいいけど」
「…………」
ツンと突き放す言い方をする藏元を、じっと見る。
……これは、……ツンデレのツンなのでは?今回はツンデレキャラか。キャラのラインナップ多すぎだろ。
「……あの、秘密というより今のに関してはどちらかというと軽いトラウマ………」
「え……?」
「……ん?あれ?……なんで……?」
藏元の問いかけから記憶を辿って、当時を思い出す。そして、違和感を抱いた。
あの時宮代さんは、生徒たちがたくさんいる廊下で確かに言い切った。聞いた話じゃ、図書委員長様って日焼けを嫌って滅多に外には……。
「……マジか……?」
「?……成崎?」
嫌な推測が生まれてしまい顔を引き吊らせた俺に、藏元は素直に心配の声をかけてきた。
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