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一回裏。今度はこちらの攻撃ターン。 念願のベンチ、隅の方に座って、涼みながらグラウンドを眺める。 ……当然と言うか、予測通りと言うか、相手チームのピッチャーは東舘さんだ。ムカつくけど、投げる姿がめっちゃ格好いい。藏元のときと同様、肩慣らしのためにボールを投げる度、観客たちから歓声が上がる。 一通り準備運動を終えた相手チームに合わせて、こちらのチームから一人目のバッターが出ていく。 「はぁー……」 慣れた素振り、当然のように速い投球。きゃーきゃーと騒がれる選手たち。飲み物を飲みながら、その光景をため息混じりに見つめる。 なんで俺はここにいるんだろう…… 「成崎」 「んー」 藏元に呼ばれても、無気力で返事を返す。 「次、成崎ね」 「……は?」 「次のバッター、成崎ね」 「……やだよ」 「あはは。我が儘」 何故か冗談だと思っている藏元は爽やかに笑ってる。 「違う違う。本気で。まじでやだ」 「やらない、は無理だよ」 「だとしても、なんで二人目?嫌だって」 「俺としては早めに副会長の目的を知りたいんだ」 「目的?試合に勝つ、だろ?」 「それもそうなんだけどね……」 「……宮代さんがこっちに来てくれたし、東舘さんと宮代さんが別チームになれば幾分か変わるんじゃね?」 宮代さんをチラリと見ながら話を進める。少し離れたところに座る宮代さんは、ファンじゃない普通の友だちでもいたのか、2、3人と談笑している。 「とにかく、次、よろしくね」 「えぇー?藏元ぉ」 そこをどうにかぁ……と何とか逃がして貰えないか粘っていると突然耳元に寄せられた唇。 チームメイトたちは皆、グラウンドに注目していてこちらを見ていない。それも藏元は分かっていたのかもしれない。 「おねだりする成崎も可愛いけど、今回は我慢して?」 「おねっ……!?」 「ふふ」 「……の、ヤロっ……!!!」 Sっ気の混じる微笑を浮かべて離れた藏元に、俺は悔しさと恥ずかしさで言いたい文句も言えなかった。 ただ睨むだけになってしまって黙って見上げていると、観客席から拍手の音が響いてきた。 「藏元くーん」 「何?」 「次、バッターはぁ?」 チームメイトのひとりに問われてグラウンドを見てみれば、一人目が打ち取られていた。 「次は、」 「やだ」 「成崎が行くよ」 「バカ元」 藏元に左手首を掴まれ、強制的に手を挙げさせられる。それを振り払って再び睨むと、綺麗な瞳はにこやかに俺を見つめ返してきた。 「ちゃんと見てるから」 「……?」 「大丈夫だよ」 「…………ん」 相手が東舘さんだから、藏元は俺を心配しているわけで…… 注目される試合、ファンに恐怖心を抱いていた俺は、藏元は本当に心配してくれているんだと、少し気持ちを整理できた。 小さく頷いて、漸くバッターを引き受ける気になった。 「おーい。“ふたりの世界”はその辺にして、さっさと行ってくれー」 「っ!違っ、そんなっ」 「生で見れたなぁ、2Bの名物」 「ごめんごめん。じゃ成崎、よろしくね」 「名物にしてんじゃねぇっ!藏元、お前も否定しろよ!」 茶化すイケメンたち、聞き流す藏元。この中で俺だけがワタワタと取り乱していた。

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