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照り付ける日光。ざわつく会場。
喜ぶ一部のファン。
首筋の汗を拭いながら、俺は苛ついて舌打ちした。
「ハァ……くっそ……」
もう何球打っただろうか。
俺のなかで限界と思うくらいバットを振っているのに、その全部がファウルだった。
「21球目、だね」
21球……それだけ打ち続けている。
染々呟く東舘さんに疲れは見えない。
これはもう、確実に……
「……狙ってる……すよね」
「なんのこと?」
わざとらしく、白々しく、にっこり笑う東舘さんを睨む。
藏元が言っていた、“ふたりで遊ぶ”の意味ってこういうことか。俺がミスし続ければ東舘さんは俺をオモチャにずっと投げ続けるわけだ。俺の打ったファウルボールを相手チームの誰かが捕れば終わるだろうけど、東舘さんの邪魔をできる勇者もいないだろう。
“振らないなんて有り得ない”
あの脅しもあるし、俺が自らアウトになることもできない。だから、俺がファウルから脱出するか、東舘さんがファウルを狙ったボールを投げるのをやめるか、どちらかしかない。
ベンチをチラリと見れば、藏元が辛そうにこちらを見ていた。
「疲れた?」
「……えぇかなり」
「俺はまだなりちゃんと遊びたいなっ」
「っ」
腕の筋肉も限界ながら、投げられたボールを必死で打ち返す。打ち上がらないボールは誰かがキャッチするのも難しい軌道で、ファウルゾーンへ飛んでいった。
「……あーーしんどっ……」
息を吐くのと一緒に愚痴も吐く。
「疲れてる顔もエロくて可愛いね」
「キモいっす」
「そんなに辛いなら、やめてあげてもいいよ?」
「はぁ?」
「仮病使って、この場で棄権して?」
「……俺最初から出たくないって言ってましたよね。それなのにここまでやらせておいて、なんで今さら」
「んー、それはねー」
言いながら投げられたボールに条件反射でバットを振る。
もう駄目だ。腕もげる。二の腕の筋肉とか、普段使わなすぎて皆無なんだよね。
打ったボールの飛んでいく方向、こんなに回数打ってたら目で確認しなくても分かる。
「仮病で抜けてくれたら、今なら保健室でヤれそうだから」
「そればっかかよ」
「それ以外何があんのー?」
「はぁー……」
色々トラウマなのに、お構い無しにそういうこと言ってくる東舘さんにはどこまでも呆れる。大きくため息を吐いて今の状況を整理する。
東舘さんは俺が振るバットに、ファウルになるよう投げてくる。俺は言うまでもなくコースの打ち分けなんて出来る筈ないし、それ以前に俺の腕は限界。もう振れない。でも自らアウトになるという選択肢は奪われている。
……じゃあどうするか。
「その冷めた感じ、そそられるっ」
「……やーめたっ」
投げられたボール、俺はまた振る、フリをして直ぐ様バントに切り替えた。
「!!」
コロンコロンと手前に転がったボールを尻目に取り敢えずファーストに走り出す。
この際アウトになってもいいや。東舘さんとのファウル地獄は脱出できたんだ。早く休みたい。
会場が、互いのチームが声を出し会うなか、俺の目の前に一塁が見えてきた。
がしかし、俺にそこまでの体力なんて残ってなかったし、そもそもスマートに塁に進めるほど運動能力もない。重い脚が絡まり、疲労感溢れる体はあと1歩のところでバランスを崩した。
ださっ……転けるじゃんこれ。でもせめて、指先だけでも塁に触っとけば……
限界まで腕を伸ばし、ぎりぎりベースに触れた。あとは転けるだけ……
「……?」
目をギュッと瞑って痛みに備えても、一向に来ない痛み。
……てか今、体が地面についていない?
「意外と、負けず嫌いなんですね成崎先輩」
「……水谷、くん……?」
気づけば目の前には水谷くんの顔があって、俺が転けずに済んだのは寸前で水谷くんが俺を支えてくれたからだった。
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