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「大丈夫ですか?」
「ぁうん。ありがとうございます」
支えてくれていた水谷くんから離れお辞儀する。どうやら彼は一塁を守っているらしい。
「というより、俺を助けてよかったんですか。敵チームだし、送られるボールに備えなかったら……」
「今のは明らかに間に合わない感じだったから、それよりも成崎先輩かなって」
「水谷く」
「だって先輩、あのままだと壮大な転け方してましたよね」
「壮大……」
はは、と笑う水谷くん。俺の救助を優先してくれたことにちょっと感動したのに、これは多分少しからかわれている。
「あのぉですね……、これでも俺はかなり真剣に」
「ぁ」
「?」
パァンッ
話している最中、突然水谷くんは自身の顔の横にグローブを掲げ、いきなり飛んできたボールをキャッチした。
「!??」
牽制球?ぇでも俺、盗塁なんか狙ってないし、出来ないし。
「……先輩、塁、踏んでください」
「……あ」
「俺が触るとアウトになっちゃいますよ」
わざわざボールを俺に見せて教えてしまうこの後輩、いい人過ぎないか。
「それ、いいんすかね、俺に言っちゃって」
「多分この牽制球は、アウトを狙ってというより、副会長から俺への牽制球ですから」
「?」
お言葉に甘えて塁を踏みつつ、水谷くんの言葉に首を傾げる。
「おーい1年生ぇ」
「はい」
「あんま調子乗んなよー」
「……っす」
声色は元気なまま東舘さんが水谷くんに圧をかけてくる。東舘さんにボールを返して謝るように返事をした。
「……怒られたくないので、試合に専念しますね」
「そっすね……」
「頑張ってください、成崎先輩」
「……はい」
敵チームだよ、とか言おうと思ったけど俺だって水谷くんのプレーに感心してしまったわけで、素直に応援を受け取った。
二塁へ体を向けつつ、視線を次の打者、バッターボックスに向ける。
大歓声を浴びながらその場に立った、宮代さん。
ちょっと気になるんだけど……宮代さんも藏元に言われて出てきたんだろうか……?
「ミヤ……」
「さっきは悪かった」
「そっちのチームにすんなり入ったってことは、俺の邪魔する気はあるんだ?」
「嫌がらせをやめさせたいだけだ」
「嫌がらせじゃないですぅ俺はSなだけですぅ」
「今の東舘より、1年の頃の東舘の方がまだ好感持たれたんじゃないか」
「はぁ?全然笑えない冗談だなミヤ」
「わりと本気だよ東舘」
「……なら、ちゃんと本気で答えるよ。……それは有り得ない」
「なんで言い切れる。成崎も同じだと思ってるのか?」
「……」
ふたりは気付いているだろうか。ふたりの会話に、このグラウンドにいる全ての人が聞き耳を立てていることに。
……1年の頃の東舘さん……?でも、よく考えてみれば不思議だよな。あの宮代さんが、あの東舘さんと友だちなんて……。生徒会長と副会長の立場だから、ふたりの関係なんて深く考えたこともなかったけど、性格も意見も合いそうにないふたりがなんで友だちやれてるんだろう?
「俺が今何しようと、お前には関係ない」
「あるよ。成崎は、俺にとっても大切だ」
振りかぶった東舘さん、構えた宮代さん。
不思議な関係の友だち対決に勝ったのは、宮代さんだった。
1球目からボールをとらえ、大きく高く打ち上げた。そのボールがフェンスを越えることなんて、俺でも分かった。
ホームランに大盛り上がりの会場のなか、バットをそっと地面に置いた宮代さんは歩きつつ東舘さんに告げる。
「余計なこと喋る俺はさっさと三振で打ち取りたかった?だから変化球?お前らしいよ」
「うっせぇお邪魔虫。さっさと一周して下がれ!」
「ははっ!はいはい」
笑ってヒラヒラと手を振った宮代さんは、俺を見て二塁を指差した。
「成崎、進んでくれ」
「……ぁ、はいっ」
俺が進まなきゃ宮代さんも進めない。ハッとして慌てて二塁、三塁と踏み、ホームベースに戻ってきた。
まさか俺が戻ってこれるとは……いや、宮代さんのおかげか。
ベンチに戻る途中、どうしても気になって足を止めた。普段ならなるべく視線を反らすのに、今は自分から見つめている。
マウンドに立つ東舘さんは、宮代さんと話してから明らかに雰囲気が変わっていた。
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