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藏元は、頑固で、意地っ張りで、警戒心も強くて、でも凄く優しくて、他人に気を遣いすぎるから、東舘さんのことも少し心配しているんじゃないかって……気がした。 だからその心配を少しでも緩和できるなら、俺は探れるところまで探ってみよう。 そう思ったんだ……けど、勘違いだったかも? 「やーだっ!文化祭はなりちゃんと回りたいっ!」 「約束が違います」 「はっ!絶対守るなんて言ってねぇよ!」 「東舘……それは流石に駄目だろ」 「うるせぇミヤ!大体この試合にお前が出た時点でルール変わってるじゃねぇか!当初と状況違うのになんで当初のルール守んなきゃなんねぇんだよ!!」 ぎゅうっと締め付けられる体。包容って、人を不思議な気持ちにさせる。 東舘さんという人が俺のなかではまだ怖い人ではあるのに、なんだか抵抗できな……ぁ、違うな。目の前で東舘さんを説得してくれている藏元と宮代さんがいるから俺は地雷を踏まないように大人しくできているんだ。 ……というか、“1日デート”が、いつ“文化祭デート”に決まってたんだ? 試合は、最終回で宮代さんが再びホームランをぶっ放し、逆転勝利した。アイドル様たちが大活躍して大盛り上がりだった今回の試合、観客たちも大満足で空気的には最高の終わり方だった。 だけど、東舘さんだけはその結果を認めなかった。 見たことないくらい真剣に、試合に集中していた静かな東舘さんはどこへやら。 試合が終わってからずっと藏元と宮代さんに猛抗議している。 「勝負は勝負だろ……諦めろ東舘」 「文化祭準備も文化祭当日もなりちゃんと一緒とかムカつく!当日くらい譲れやっ!」 「ムカつかれても……それが同級生で友だちの特権ですから」 おいおい、宥めたいのか煽りたいのか分かんねぇぞ藏元。 「お前の勝ちとか絶対認めねぇ!!」 「じゃあどうするんですか……」 藏元も少し苛ついているのか、口調が雑になっている。 藏元と東舘さん、宮代さんが無言で見つめ会っていると、その近くを偶々通りかかったお片付け中の髙橋。 ごめん髙橋、俺もこれが済んだらすぐに片付けに加わるから。 「ぁじゃあ、無かったことにすればいいんじゃないすか?」 「……無かったことに……」 多分これといった考えはなく髙橋は提案してきたんだと思うけど、藏元が神妙にその一言を繰り返す。 宮代さんが藏元をチラリと見たあと、クスクス笑って髙橋に突っ込んだ。 「それじゃ本気出して阻止した藏元が可哀想だろ」 「ぁ……」 分かりやすく髙橋は動揺した。 好きな人を可哀想なことにはしたくない、人間の心理だよね。 「……じゃ、じゃあ!勝者の特典は宮代先輩が貰うっていうのはどうすか!」

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