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「俺?」
「会長が……?」
「なんでミヤが」
「俺と宮代先輩も勝負してたのでっ。勝った宮代先輩は、生徒会の仕事がいっぱいあるからその手伝いってことで成崎がっ!」
「……ぇ俺?」
「成崎は仕事得意だから!な!?」
「得意……というか、やらざるを得なかったというか……」
「成崎が宮代先輩の手伝いに行けば、文化祭の予定は埋って、今回の勝負は無効に……」
「…………」
「…………」
髙橋は三人の顔色を伺っている。
なにもわざわざこの地獄の空気に混ざってこなくてもよかったのに……でも、空気を読まない髙橋に、今回は助けられたよ。
「俺はそれ、いいと思います」
「なりちゃん?」
「成崎……」
「いいのか、成崎」
「はい。文化祭当日は俺に遊ぶ時間はないと思うし、むしろ仕事あったほうが俺には都合いいし。それに、東舘さんも髙橋も生徒会の仕事しないだろうし」
「ぅ゛……!」
「なりちゃん意地悪なこと言うなよ」
「あなたに意地悪とは言われたくないです」
東舘さんの腕の中から抜け出し、宮代さんを見上げる。
「できる限りの雑用はしますので……役に立てるよう、頑張ります」
「……じゃあ、よろしく成崎」
「うす」
宮代さんに小さくお辞儀して、不満そうなふたりを見えないフリをして髙橋が持っていたベースをもらう。
「片付けるよ。倉庫でいい?」
「ぁうん。ありがと」
2枚を、片手に1枚ずつ持ち、グラウンドの傍にある倉庫に向かって歩き出す。
案外、重たい。指痛い……持ち直したい。
一端地面に置こうとしたときフッと軽くなった。
「持つよ」
「ぁ……ありがと」
軽々と持ち上げて倉庫に向かう藏元を追いかける。
倉庫の扉を開け薄暗い中を見渡す。
「確か……野球用具は奥だったと思う」
「……あそこにグローブがある。あの棚だね」
「だな」
独特の匂いがする倉庫の中を進んでいき、空いている棚にベースを戻す。
「うわ……このグローブとか埃被ってんじゃん。めっちゃ汚いけど……誰が使うんだろ。野球部は皆マイグローブ持ってるよな?これって忘れた人用……と、か…………」
「…………」
「あの……」
外は暑かった。この倉庫の中は蒸し風呂みたいに暑い。それなのに、もっと暑くなるような、背中に密着する熱。
「…………く」
「会長と、デートするの?」
「え……いやいやっ違う、ただの手伝い」
「……そう」
「…………」
「…………」
「……ほんと、手伝いだけだよ」
「……うん」
覇気のない返事を繰り返す藏元に、何と言えばいいのか言葉が見つからず、ちょっと考えてしまう。
このとき俺は完全に、倉庫の扉が開いたままだったことを忘れていた。
ガシャンッ
金属音が響いて、驚いて藏元を突き放した。
ライン引きのカートを片手に、大きく目を見開いて呆然と立ち尽くした髙橋がそこにいた。
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