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「……違うよ?食欲よりも眠気が勝っただけで、決して約束を忘れたわけじゃない」
「……成崎」
「藏元と約束してからは、ちゃんと、面倒だなって思っても食べてるし」
「ふっ……大丈夫。からかっただけだから」
「……ん?」
マッサージが終わったらしい片腕を離して、再び掌にクリームを出した。
……マッサージされた腕が、されたばかりなのに凄く軽くなった気がするのは気のせいか?
「前よりもずっと、顔色とか体調とか良さそうだから、約束守ってくれてるって見てて分かるよ」
「…………眩しぎるだろ」
「え?」
「……なんでもない」
「?……ぁもう片方もやるね?」
「ぁうん、ありがとうございます」
藏元はソファーに座る俺の前に屈むともう片方の腕をマッサージし始めた。
真剣な表情の藏元を真正面から見下ろし、つい見とれてしまう。
「……かっこいいな、藏元」
「え……何、急に」
「……スポーツ……本当にやらないの?」
「…………」
言うべきか、凄く悩んだ。これまでにも多くの人に問われたと思うから。でもやっぱり、本人の口から聞いておくべき事なんだと思った。
「……藏元が本当に拒絶してるなら別にそれでいいけど」
「……あのね、昨日の試合も、俺は、成崎がいたから楽しかったんだよ?」
「じゃあ俺と野球できたからもう野球はしなくていいのか?」
「……」
「俺はそれ、違うと思う。俺だって藏元のこと見てる。だから感じたよ。東舘さんと、宮代さんと、髙橋と野球してる藏元、楽しそうだった」
「……そうかな。副会長には凄くムカついたけど」
「会話には、ね。でも、プレーは凄く楽しそうだったよ」
「……」
「今すぐ決めろなんて言わないけど……少しでも楽しいって思えたなら、もう1回だけやってみれば?」
「…………」
腕のマッサージを終え、手を離した藏元はゆっくりと俺を見上げて眉尻を下げて微笑んだ。
「成崎、俺のこと見てくれてたんだね」
「…………は?ぁ、いや違う、そこじゃなくてっ」
「うん。大丈夫。ちゃんと理解してるから」
「……」
「……考えてみるよ、もう1回」
拒絶覚悟で言ってみたけど、言ってみるもんだな。後は藏元次第だ。
「……おぅ。……ありがと」
「お礼は俺が」
「マッサージのお礼だよ」
「あぁ……うん。どういたしまして」
両腕を、先程より早く動かせるようになった。軽くなったのもあながち勘違いではないのかも。となればこのケア、とんでもない効力があるってことだ。
「……このマッサージ、脚にも効いたりする?」
「脚?……うん、効くと思うけど……」
「歩けないって相当厄介だからなるべく早く脚の筋肉痛を治したいんだ」
「うん、やればやらないより早く治るだろうけど……その……俺が……?」
複雑な表情で見上げてくる藏元に、俺は配慮が欠落していたことを察する。
「……あっごめ、その、えっと、やり方をっ」
「ううん!成崎違うんだ!俺がやるのは構わないよ!でもほら、成崎、触られるの嫌じゃないかなって!」
「ぇ……俺は大丈夫です。藏元は……俺の……てか、男の脚に触るとか……平気?」
「問題ないよ」
「じゃあ…………お願いします」
俺は藏元の優しさに甘えまくって、脚のマッサージまでしてもらえることになった。
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