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注意:俺は今、マッサージしてもらっているだけです。 ソファーにうつ伏せになって寝転がり、俺は枕代わりのクッションを握りしめた。 「っ……ン……!」 脹ら脛を程好く圧迫する藏元の手が、絶妙な刺激を与えてくる。少しの痛みとマッサージの気持ち良さで間抜けな声が出そうになり、短いスパンで呼吸を止める。 「……にしても……なんか……」 「……なに?」 「っ……」 俺は変な声を殺すために、藏元は何故かぎこちない声で話すものだから、ギクシャクした会話になっていた。それなりの付き合いなのに、初めて会った他人と会話しているような、そんな会話のテンポ。 「……友だちに……マ、サージさせる……とか、なっんか……酷いよな……」 「……そ?」 「絵面的に……最低な友だち……」 「……互いに了承してるから……大丈夫、だよ」 「……ッフゥ……」 やべっ……今声出そうになった……このマッサージ本当やばい…… 「……つか、なんなの……その喋り方」 「……?」 「っ……ぎこ、ちない……」 「鬼かよ成崎……」 「ん?っ……」 「……今は、“友だち”だもんね……」 「……?」 「だから、無心になろうとしてるだけ」 「……?」 鬼、か……まぁ確かに。友だちがマッサージしてくれてるのに、ついに睡魔が来てウトウトして寝そうになっている辺り、かなり図太い神経で酷いやつだとは自分でも思う。 「……ふぅぅ……藏元ぉ……」 「なに……?」 「気持ちい」 「……よかった」 「……眠い」 「え」 「堕ちそ……ンッ……てか、……堕ちる」 「ぁ……ぇうん……どーぞ」 「…………ごめ…………」 将来、マッサージ師としても藏元は働けると思う。そしたらイケメンマッサージ師がいるって有名になって、その店は大繁盛だろうな……いや、そしたら女性客が増えるのか? ……それは嫌だ。なんかムカつく。あ、スポーツ選手専属のトレーナーならいいんじゃね?何やっても有望だな藏元…… 「……悪魔だな……」 堕ちる寸前、藏元のそんな呟きが聞こえた気がした。

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