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「……ん……」 朝目覚めたときは、体痛い動かせないあー筋肉痛だ、という感覚で目が覚めたんだけど……今は違う。体が、明らかに軽くなっている。 「…………」 瞬きを何度か繰り返し、少しずつ視界を広め自分の現状を整理していく。 自分が枕にしているものは……ソファーに置いているクッション。寝ているところは、リビングのソファー。目の前のテーブルには、麦茶。 ……で、テーブルとソファーの間に座り、本を読んでいるその後ろ姿。 ゆっくりと手を伸ばし、その人の襟足の髪を撫でる。ゆっくりと振り返り、甘く微笑んできた。 「……お早う」 「……ん」 「熟睡だったね」 「藏元の、マッサージのせい」 「せいって」 クスクス笑いながら俺が伸ばした手を取り、指を絡めてきた。 「めっちゃ気持ちよかった……凄い楽になった……ありがとう」 「それはよかった」 「ふぁああっ……二度寝って最高だなー…………それ、何読んでたの?」 「ぁごめん。ここに置いてあった本、勝手に」 「あぁ……別にいいけど……それ8巻だから読んでも意味不明なんじゃね?」 「ちょっとね。でも、面白かったよ」 「……なら、よかった」 途中からの話じゃ理解できないのが普通だろうけど、好きな本をお世辞にも面白いと言ってもらえたから単純に嬉しかった。 「……今お昼時だけど、ご飯どうする?」 「んー……取り敢えず喉乾いた」 「麦茶飲む?」 藏元がテーブルの上の麦茶を手に取った。寝転がったままの俺は、世話を焼いてくれる藏元がいるのをいいことにふざけて我が儘を言ってみた。 「んー……冷たいの飲みたい」 「冷たいの?」 「それ氷溶けてるだろ」 「ぁ、じゃあ冷凍庫から」 「まだ起きたくない」 「え?」 「ふっ……藏元持ってきてー」 吹き出しそうになって、ニヤニヤしながら藏元に指図した。藏元も、呆れた顔で笑ってる。 「……成崎、楽になったって言っただろ?起きれるだろ?」 「言ったけど、まだ寝惚けてる感じなんだよなー」 「ちゃんと起きて、お昼の準備するよ?」 「じゃあ飲み物持ってきて?」 「…………」 駄々をこねる俺と、笑って呆れる藏元は、暫く無言で見つめ会い、ため息を吐いて先に目を反らしたのは藏元だった。 「……いいよ、わかった。冷たい飲み物、ね」 「おぅ」 勝った。 そう思って優越感に浸っていたら、自分の麦茶を飲み出した藏元に思考が止まった。 「…………ぇ?」 振り返り、ソファーに寝転がる俺に覆い被さってきた藏元の目は、先程までの看病していた優しい目じゃなかった。 「藏、んぅっ……!」 濡れた唇が唇を塞いできて、割り開かれた口腔に冷たい液体が流し込まれてきた。 「ふぅ……!んっぁ……!!」 何がなんだか、大混乱で口のなかに麦茶を溜め込んでいると藏元の手に顎を掴まれ少し上を向かされ、飲み込まされた。 「ん゛ぅ…………ゲホッ……」 なんという……なんと恐ろしい男。 「看病も終わったし、さっきまでで“友だち”も終わりでいい?」 「……はい?」 「ここからは、“恋人”でいいかな?」 「……や、やめなさい!そういうこと言うの!君簡単にそういう発言するけど、言われるこっちは色々考えちゃうから!」 「……色々って?」 「……あ」 俺の馬鹿。藏元が更に楽しそうな顔をし出した。

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