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「……だよねって……何……」
「ん?……あー、俺の机に人権侵害または名誉毀損、まぁ世間一般的に言われる虐め的文句が書かれてたとか、またはそう捉えそうなことがされてたって感じじゃない?」
「…………なんで……」
「んー。この学校で補助役として過ごしてた俺の、直感」
回りがドン引くほど冷静な俺に、藏元すらも呆気に取られている。皆の間を通り、自分の机を視認する。
「あー……凄いなこれ。ゴミは捨てるとして……油性ペンかな?ペンキとかスプレーだったらアルコールで落ちんのかな」
「な……なんでそんなに冷静なんだよ!?こんなの、酷すぎるだろ!?」
「……」
藏元が俺の肩を掴んで凄い剣幕で怒ってきた。こんな顔、東舘さんと殴り会ったとき以来だな。他の皆は藏元の穏やかなところしか見たことないから、完全にビビっちゃってる。
圧死しそうな空気の教室に、この事態を知らない間の抜けた声はいつも通りやってきた。
「おーっすお前らーHR始めるぞぉ………………お?」
「…………」
「…………」
「どうした?……座れよ?」
「ズッキーごめん。空き教室から机ひとつ持ってきていい?」
「!」
「…………」
皆がズッキーに見えるように場所を空けるものだからズッキーの目にも俺の机は映っただろう。
わざわざいいのに、お優しいね皆。
「…………おぅ。手伝うか?」
「いえ、平気っす。」
「そうか。じゃあ他のやつはさっさと席に」
「ふざけんなよっ!!!」
藏元が、全員を黙らせるようにぶちギレた。
回りの皆、既に半泣き状態。ズッキーは目を見開いている。俺もさすがに、恐いと思ってしまった。
「あんたら全員、成崎にあれだけ助けられてたのにっ成崎が辛いときは見て見ぬふりかよ!?」
「……藏元、ちょっと……落ち着いて……」
俺は震えそうな指先を必死に堪えて藏元に手を伸ばす。その手を痛いくらいの力で掴まれ、藏元は苦しそうに瞳を閉じた。
「俺はっ……成崎を傷つけるやつは皆……許せないっ……!!」
「…………」
俺のためにここまで激昂する藏元に、不謹慎にも思わず笑いそうになる。
恐いとか思ったけど……、めっちゃ嬉しい……。
「……はぁー……藏元ってばほんと…………。分かった、ちゃんと説明するよ。ズッキー、HR、大事なお知らせとかある?」
「いや、ねぇ」
「ねぇのかよ」
「あぁ。だから存分に“ふたりの世界”を見せつけてくれ、俺たちに」
「あんたまでそんなこと言ってんのか」
ほんと、この教師には呆れるよ。
もう一度ため息を吐いてから、藏元を見上げる。
「あのね……俺こういう経験、何回もあるんだ」
「!?そんなっ……」
「俺がノンケってこと信じない人たちが勘違い、思い込み、嫉妬で1年のころはその標的になりまくってたから」
「……」
「だから、あーあまたか学校の備品駄目になっちゃったなーくらいにしか思わないんだよね」
「誰も……助けてくれなかったの……?」
ぎゅーっと握られた手に意識が行かないよう必死に誤魔化す。
「んー……やられたとしても結局勘違いばっかりだったから、今まではすぐ収まってたんだよ」
「……」
「でもね、藏元」
「?」
俺は視線を下に向け、汚された机を見るよう促す。
「今回はすぐには終わらないと思うんだ」
「…………ぁ……」
「……」
机に書かれた文字を読んで藏元も察してくれただろう。
そこには読み取れる文字だけでも“髙橋”“藏元”“邪魔者”“嘘つき”などの文字があって、これはどう考えても、あの野球の試合のあとの髙橋とのやりとりが誰かに聞かれていて、それが広まったに違いない。
もう、藏元との関係は公になっている。
勘違いじゃないから、
「…………ずっと続くと思う」
「…………」
「でも本当に、慣れすぎてて何とも思わないから、藏元も流してほしい」
「……もう、…………バレてるってこと?」
「ん?」
不意の質問に俺は言葉を詰まらせた。
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