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俺が即答しなかったからか、藏元は他の生徒たちに視線を向け問いかけた。 「俺と成崎のこと、もう知ってるんだね?」 つい先程藏元のめっちゃ恐い姿を見たからなのか、生徒たちは怯えるようにぎこちなく首を縦に振った。 「…………じゃあ俺も、恋人として成崎の隣にいるよ」 「……ん?」 「隠さなくていいなら、俺の恋愛を邪魔される筋合いもないからね」 にっこり笑った藏元の声にはまだ多少の怒りが残っている。 「おーついに恋人宣言したなぁ」 「っ、やめろズッキー!」 「なんだよ?俺は最初から言ってたろ?藏元王子と成崎、お似合いだぁって」 「黙れって!」 「ありがとうございます先生。でも、成崎を傷つけたら先生でも容赦しませんからね」 「……肝に銘じます」 目を反らして、から笑いしたズッキー。横にいる藏元を盗み見た。 ……変なスイッチ押した……か? 「掃除、しよっか」 回りにいた生徒のなかのひとりが、優しい声で提案してきた。その提案者を見て、俺は少なからず戸惑ってしまった。 「渡辺……」 俺の机の上に散乱したゴミを捨てるため、ゴミ箱を近くに寄せる。 「……心配しないで」 「ぇ……」 「俺は成崎くんの味方だよ」 片付ける手は止めないまま、渡辺は話す。 俺の勝手な推測だったけど、渡辺は俺をよく思っていない気がした。だって、渡辺は髙橋が好きだった。その髙橋が好きだった藏元が俺なんかを選んだとなれば、何かしら思うところはある筈だろう。 これが演技だったとして、俺に恨みがあるのに俺のために汚いゴミを誰よりも先に触れるだろうか。俺には、渡辺はそんな酷い奴には思えなかった。 「……その、……」 「髙橋くんは答えがどうであれ、藏元くんの答えを求めた。……髙橋くんの恋愛は、俺が口出すことじゃないからね」 「……」 俺が思っていたよりもずっと、渡辺は大人だったようだ。 「第一、この話を聞いたときも、あまり驚かなかったよ」 「……ん?」 「だってふたりのことは2B内では結構噂になってたから」 「……はい?」 俺が上げた疑問の声に、渡辺以外の周囲の生徒たちがクスクス笑いながら掃除を手伝い始めた。 「成崎は超のつく鈍感だからなー」 「だよなー」 「あ!?」 「藏元くんが成崎くんに向ける態度は、他とは明らかに違ったからね」 その文句はかなり言われている気がする。だとすれば、彼らの思い違いではないのか? 探るように藏元を見れば、口元を手で隠して真剣な眼差しで虚空を見つめ考えていた。 ……つまり、無意識? 「く、悔しいけどっ譲ってあげます!」 藏元ファンのひとりが腕組みして俺の前に立ってきた。瞳が潤んでいる。頼むから、泣かないでくれ。泣かれたら、俺はどうしたらいいのか、その術を知らないんだ。 「でもっ、だからって、独り占めしないで!僕らの王子様!」 「ふたりで授業脱け出して秘密の……なんて、絶対駄目!!」 「成崎くんにはまだ早いっ!!!」 ファンの妄想が凄すぎてついていけない……けど、泣かれるよりは全然いい。 「ねぇ、あの……俺別に……今までの生活を変える気はないから」 「はぁ!!!?」 クラスメイトから、ファンから、藏元を奪うつもりはない。そう提言しようとしたら、思いもよらぬ反応が返ってきた。 安心されるかと思ったのに、殆んどの人にがっつり睨まれてる。 「……え?」 「ここまで恋愛素人なんて……」 「藏元くんが可哀想」 「しろ……は?可哀想?」 「藏元くんがそうしてほしいって思ってるとでも?」 「……えっと、俺は皆が今後」 「僕らのことを優先してちゃ駄目なんだよ成崎!」 ネコの人たちは普段おっとりした喋り方なのに、呼び捨てにされた。 「ぁえ……すみま」 「成崎を指導しつつ、ふたりが幸せになるよう2Bは応援しますから!!藏元くん!!」 「……皆、本当にありがとうございます」 「……」 説教じみたお言葉をくらいポカンとする俺を残し、藏元とクラスメイトたちはお辞儀しあっていた。

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