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ドアに貼られた紙を全て剥がし終え、藏元から隠すように掌の中に丸めた。
……顔が暗いままなんだけど…………我慢させ過ぎたかな……。
「寄ってく?」
「……ううん。今日は遠慮しておくよ」
「……そ」
「ゆっくり休んで」
髪を優しく撫でてきた。気遣ってくれるのは嬉しいし有り難いけど、精神的に参ってるのは、どちらかというと藏元のほうだと思うぞ。
「…………どうした?」
「え?」
「なんか……?」
「…………えーっと……夜、さ」
「ん?」
「夜、電話してもいい……?」
「?うん。全然いいけど」
「よかった……」
何故かホッとする藏元に事の重要性が分からず疑問を返す。
「別にそれくらい」
「……ふっ……覚えてないんだね」
「ん?」
「“忙しいからあまり出られないよ”って」
「…………あぁ!」
藏元が転校してきたあの日、連絡先を交換したその時に俺が言った事だった。あの話を藏元はちゃんと覚えていたんだ。
「凄いな、覚えてるなんて」
「成崎の言葉は不思議なんだ」
「不思議?」
「どうしてか、忘れられないんだ」
「それはどういう……いやっ!それは困る!俺の失言や馬鹿な言動は忘れてもらわないとっ」
「ぁそこ?」
クスクス笑い出す藏元に、何が可笑しいんだと目を点にする。
「今思えば、電話の件も成崎の立場には必要な何かだったんでしょ?」
「……必要と言うか……サボる為、かなー」
藏元があまりにも俺の行動を意味のあるものとして言ってくるから、ちょっと申し訳無くなる。俺はそんなに思慮が深い人間じゃない。
「俺は相談窓口みたいなことしてたから。電話なんてされたら四六時中相談乗る羽目になって休めないじゃん」
「それはそっか。係の仕事もたくさんやってるのに、電話までされたら大変だよね」
何を言っても優しく受け止め嫌味では決して返してこない藏元は人間的に出来過ぎている。
再び微笑んで頭を撫でてきた藏元は俺を真正面から見つめる。
「電話、出来て嬉しい」
「……まだしてないだろ」
「そうだけど、約束出来ただけで嬉しい」
「はいはい。じゃあ、送ってくれてありがとね」
これ以上藏元を喋らせるとまた王子様の魔法をかけられそうで、返事を誤魔化してドアを開ける。
玄関に片足を突っ込んで、最後にもう一度だけ振り返った。
「……あとでね」
「……ん」
こんな奴が俺の隣にいるなんて今でも不思議な状況だよな……
頭の片隅でそんなことを思いながら、ドアを閉めた。
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