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藏元との別れ際の空気が尾を引いて、夜の電話は妙に緊張した。しかも藏元の話し方が甘ったるくて、何気ない会話をしているだけなのに緊張した。
何でもない電話がこんなに緊張するんだったら、いっそ相談窓口のほうがよかったな……俺にはそっちのほうが向いてると思うし。
そんな俺には似合わない“恋人みたいな時間”を過ごし、気持ちが落ち着かず寝付けなくて、寝不足で迎えた翌日。
登校直後から嫌がらせは当然あった。
夢から現実に戻される出来事、皆はそう言うんだろうな。まぁ俺からすれば、予想通り予定通り。
ロッカーは何かで叩かれたのか、凹んで歪んでいた。
開けてみると、ゴミが詰め込まれていた。
「いやいや、すぐ傍にゴミ箱あるでしょーが」
この場にいるのは俺一人なので、ロッカーに向かってツッコんでみた。
開けても崩れ落ちてこない詰め込み方、やった人上手だね。シュレッダーゴミかな?めっちゃ細い紙屑だ。
やった人はちょっと残念だったろうな。俺、靴持ち帰ったし。
シューバックから上履きを取り出し、外靴を仕舞って、ゴミ箱を近くに寄せてロッカーの中のゴミを捨てる。
ゴミ箱を定位置に戻していると、何処からともなく走る足音が迫ってきた。予想はできるよね。
「成崎っ!」
「おはよー藏元ぉ」
「お早うっ大丈夫?何もない?」
若干汗をかいた藏元が、体育館方面から全力疾走してきたのだ。
「んー。問題無いよ」
「そう……でも、俺やっぱり朝も」
「心配しすぎだよ」
朝も一緒にいたい、昨日の電話でそう申し出を受けていた俺は、それを断っていた。
俺は誰も起きていないであろう早朝からガゼボに行っている。それは未だ誰にも(宮代さんは除いて)バレていないし、そもそもそんな時間から藏元を拘束なんて出来ない。だからたった今あった出来事も隠した。
「それより、体育館で何してたの?」
「ぁ、今日はバレーボール」
「朝からジャンプしてたんですかお疲れ様です」
「ジャンプって……それだけだとアホっぽくない?」
「逆に藏元がアホに見える瞬間を知りたいよ。それだけじゃ絶対崩れないだろ」
「そんなことないけど」
額の汗をTシャツの袖で拭いた藏元は、それだけで格好いい。そんな奴が、ジャンプするだけの姿でカッコ悪くなる筈がない。
「タオル……つーか服、着替えなくていいの?あと数分でチャイム鳴るけど」
「ぁそうだ。一旦更衣室に戻って」
「んー」
「…………」
「ん?」
体育館側に体を向けた藏元は言葉を止めると、振り返って無言で見つめてきた。
「何?」
「……来て」
「は?ぇ、ちょ??」
突然手首を掴まれ、そのまま連行される。俺は体育館に、更衣室になんか用はないのに。
「俺は先に教室に」
「やっぱり心配だから、一緒にいたい」
「ぁあのね、あと数分くらい」
「これは俺の我が儘だよ」
「っ……」
「お願いだから、一緒にいて」
「ぉ、おっ、お前なっ」
俺が断れないの分かってやってるだろぉおおっ!
頑固藏元に完全に押し負けた俺は、結局そのまま一緒に行動した。
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