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今日から文化祭の準備が本格的に始まる。授業は午前中だけで、午後はギッチリ準備の時間だ。
因みに、この学校の文化祭は学年によって出し物のジャンルが決められている。
1年は各教室でアトラクション。2年は各教室で演劇。3年は外、体育館で飲食店。普段社会から隔絶されているこの学校も、文化祭の午前中は外部の人を招いて開催される。
といっても、家族や保護者、他校の友人などが殆どだ。
そしてジャンル毎に一番集客できたクラスに賞品が贈られる。賞品は毎年違うけど、なかなか良いものだったりする。
ただ、演劇って……凄く嫌。
「はいはーいっ!やっぱり演劇はロマンスがいいっ!」
「だよねー!僕もそれがいい!!」
「勿論王子様役は藏元くんっ!」
「超似合うじゃあんっ!」
演目の話し合いで大盛り上がりの2B生徒たち。いつもなら勝手に盛り上がってろ、さっさと決めてくれ、とか聞き流すところだけど、今回はそうはいかないよね。
「あのーちょっと皆さん」
「何?成崎くん」
「文化祭は外部の人たちがいるってこと忘れないでね」
「……?」
いや、伝われよ。
「……あっごめんごめんっ!そうだよね!」
お。察した?
「藏元くんの相手役は譲れないよね!」
「は?」
「じゃあお姫様役は成崎くん?表に出るとか珍しいっ」
「ち、違うよ!!そういうことじゃなくてっ」
「本物のロマンスじゃあんっ!」
「えっじゃあじゃあっ!そういうシーンもほんとにっ……!?」
「ちょっ、やっ、ストップ!!変な想像すんなよっ!!!」
とんでもない事になってきた。過激化するクラスメイトたちに俺は大慌てで沈静化を図る。
「俺はミステリーとかやりたいな」
「えー!藏元くんまで否定的なのー?」
藏元の有難い一言に手を合わせたくなる。
皆が不満の声をあげるなか、俺は手元のプリントに視線を落とす。
演目を決めて、役を決めて、それから……あ。
これからの手順を確認していて、不足部分に気づいた。
「ズッキー、ズッキー」
「なんだ?」
「予算は?」
「……あ」
「……どこまでやってくれたんすか」
「……悪い。全く全然これっぽっちも」
「マジか。…………えーっと…………生徒会室、行ってきていいすか」
「ぇいいの?」
「いいのって……あんた行く気無いでしょ。ここ止まってたら進まないし」
「ありがとー誇らしい生徒だよ成崎ー」
「黙っててください」
椅子に座って動く気皆無のズッキーにため息を吐いて、教卓の前から退き扉まで歩みを進めた。
「……。藏元ぉ」
「何?」
「ズッキーは多分使えないから、進行役やってもらっていい?」
「え……どこか行くの?」
「生徒会室に行ってくる」
「だったら俺が」
「先生か、係じゃないと駄目なんだ。……よろしく」
「…………」
藏元から見た今の俺の世界は、教室から一歩外へ出たら別世界、なんだろうな。
「助けてほしいときは、連絡するよ」
ポケットから携帯電話を取り出して藏元に見せる。藏元は少し不安を残しつつも頷いてくれた。
皆の生暖かい視線は一切無視して教室を出た。
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