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廊下は、パラパラと人影があった。俺以外にも、文化祭準備の何かで出歩いているんだろう。 今のところは手ぶらだから、肩がぶつかる、足を引っ掛けられる等に注意を払うだけでいいかも。 いつも通りの平静を装いつつすれ違う生徒と一定の距離を保って歩く。 心配してくれる藏元を置いてきたんだ、なるべく面倒事は…… ガシッ 「!」 避けたかったんだけど…… 後ろから誰か、少なくともふたり以上に肩と腕を掴まれた。そいつらが誰なのか見極める前にそのまま何処かに引き摺り込まれた。 「あの、ちょっと何っ」 期待はしていないが対話を試みる。 「黙れよブス」 ぁこれは予想と違ったな。てっきり無視を決め込むかと……。 「えぇえちょっと、」 バンッ 思い切り背中を押され、押し込まれたのはトイレの個室だった。 「……ぁそういうことか」 背後のドアが閉まり、何かを引き摺る音がした。その後すぐにドアにぶつかる音。 重い物をドア前に置いて閉じ込められたっぽいな……。であれば、この後は……。 ポケットからハンカチを取り出し頭に乗せ、個室の壁に貼り付くように避けた。直後、建物内のトイレだっていうのに雨が降りだした。 勿論、雨なんかじゃない。 いじめっ子たちが蛇口に繋いである掃除用のホースから水を出して個室の中目掛けて放水しているんだ。でも水は真下になんか落ちないので真ん中より奥を主に濡らしていく。 いじめっ子あるあるだけど……ベタすぎるだろ。もうちょっと読めない攻撃を……じゃない。何期待してんだよ俺。手強い相手を求めてますじゃないんだよ。読めるから俺は簡単に避けられるんだ。 王道いじめっ子で、ありがとう。 降っていた水の勢いは徐々に弱くなり、やがて止まった。 「いくら無神経なあんたでも、汚れちゃったら藏元様に近づけないよね」 「澄まし顔、マジムカつくんだよ。せいぜいそこで泣いててよ」 「風邪引いてくれたら尚いいかなー。学校休んでよ」 「放課後くらいには出してあげるからさぁ!あはははっ」 「僕らが君の存在を覚えてたら、だけどねー」 「藏元様は今日の放課後は髙橋様とサッカーされる予定だから、僕らがそれとなくあんたがいない理由を作っといてあげるねー」 勝ちが決まったように壁の外で高笑いをするいじめっ子たち。 当の俺は、……なんともないんだけど。 やり切った感丸出しの声音でいじめっ子たちはトイレから出ていった。

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