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遠目に見るよりも遥かに男前の顔、先程までの親切だと思っていた対応。それらを裏切るような、ただひとつの事実を、俺は知っている。
風紀委員長様は、血も涙もないドSだということ。
これまでずっと、この御方とだけは関わりを持たないように生活してきた。ひたすらに避けて、この御方の絡む話は全て第三者を挟んだ噂話ばかり、当人は遠くから視認する程度の存在。
ここまで隠れてこれてたのに、何故、このタイミングで、たった二人きりの場所で相見えなければならないんだ。そもそも俺はこの御方と直接対面するのはこれが初めてなのに、なんで既に俺ってバレてんの?
「…………ぁ、あのー……」
「なんだ」
「どうして……私 の名前を……」
「2Bの学級委員やってるだろ。馬鹿か」
口悪い……。でも、考えてみたらそうか。委員長様は学級委員名簿くらい持ってるもんな。
「えっと……じゃあ…………ぁ、アリガトウゴザイマシタ」
取って付けたようなお礼を述べ、その場から逃げるために動き出す。隣をすり抜けようとしたら、結構な力で腕を掴まれた。
おぉ、俺、何かしました!?
「相手が俺って分かってから、態度が変わりすぎだ」
「!!さ、さぃ、先程までの御無礼はどうかお許しくださいっ!」
「いいや許さねぇ」
「!!!?」
獲物を見つけた猛獣のように、怖い笑顔をくっつけて見下してくる塚本様に 、背筋が凍る。
「だから、さっさと吐け。お前の企みを」
「えっ、……た……え?」
「普通の野郎だったらここまでの虐め、耐えられる筈がねぇ。それに、」
ぐんと腕を引っ張られたと思ったら、胸ぐらを掴まれていた。
「対策済み、くらいの被害だな?なんでこの程度で済んでる?あ?」
「苦しっ……離してくださいっ……死ぬ……!」
首が絞まる。
俺って誰に虐められてたんだっけ?風紀委員長?虐めどころか、殺されそうなんだけど。あのいじめっ子たち、全然可愛かったね。
「同情されることに狙いでもあんのか?黙秘は認めねぇぞ」
「うぐっ……!」
同情??同情に何の意味があんの!?こんな死ぬ思いしてまで同情されたいなんて奴いたら、そいつ頭おかしいんじゃないの!?このままだと本当に殺されるんじゃ……!?
「か、買い被りすぎです!ぅ運!偶然!無害はっ偶然です!!!グッ……無事ですみませんっ!!」
「……」
もう酸素が吸えない、目の前が白くなる、堕ちる。そんなギリギリのところで、塚本様の手が漸く離れた。
「ゲェッホ……ゲホゲホ……ア゛ゥ……ゴホ……」
「……なるほど」
「……?」
また“なるほど”。俺には理解できないところで、この御方はその一言を呟く。
「宮代も、東舘の馬鹿も、たったひとりに関心を寄せるなんて下らねぇと思っていたが…………お前、なかなか面白ぇ」
「………………」
ゾッとした。恐怖で動けない。
「俺相手に、黙秘を貫く奴はそういない」
「!?だ、だからっ、運って」
「お前どっちだ?実は相当な馬鹿か?ここから出る前の話しぶり、“運良く助かった奴”がする話じゃねぇ」
「ぁ……アー……レは、……その……」
「……まぁいい」
……呆れられた?諦めてくれた?どっちにしろ、やっと解放される。
そう思って肩の力を抜いた。
「少し趣向を変えて、お前を追い込むことにする」
「!!!???」
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