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「心配で焦っていたというのは伝わってくるが……次からはノックしろよ、藏元」 「あっすみません……風紀と聞いて、深刻なことがあったんじゃないかって思って……」 宮代さんに理由を話しながら俺の傍までやってきた藏元は、治癒力でもあるの?って思わせるような笑顔を向けてきた。 風紀委員長様の不気味な笑顔ばかり見せられていたから、その効果は抜群だ。 「大丈夫?」 「ん。ありがと。時間とらせてごめん」 「成崎のことなら、時間はいつでもつくるよ」 「ぁあ甘やかすなよっ」 やばい。風紀委員長様との絡みが疲労として溜まってた今の俺には、藏元の甘い声が、甘い囁きが、心に染み渡る。 なんか、じーんとして……やばい。 語彙力が低下するほど癒されていたのに、その御方は嫌がらせのように容赦無く会話に入ってきた。 「お前が、藏元玲麻?」 「?はい」 多分、いや確実に初対面の風紀委員長様と藏元は真っ直ぐに向き合う。 「……あなたが、風紀委員長……ですか?」 「なんだ、そいつから聞いてないのか?」 自分の正体を聞かれて、風紀委員長様は俺を顎で指し示した。 この学校じゃ委員長様たちのことは一般常識くらいの認知度だからね。知りませんという藏元のほうが珍しい反応なんだ。 でも、風紀に関わることなんて無いだろうと思っていたし、そもそも俺が関わりたくなかったから、話をしなかった。まさかこんな状況で説明がほしくなるなんてね……。 「……ぁー……藏元、こちら、3年の、塚本風紀委員長様です。校則にとても厳しい御方でいらっしゃいます」 「塚本風紀委員長……」 「…………」 「…………」 「…………」 「……おい」 「はい?」 「足らねぇだろ」 「え?」 「必ず有る部分が抜けて、下らねぇ紹介してんじゃねぇよ」 「…………ぁ、ドSです」 「そこじゃねぇ馬鹿」 「ん?」 「俺の、下の名前だ」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 藏元、宮代さん、風紀委員長様、3人の強い視線を一身に受ける。 「…………………………」 「……てめぇ、まじか……」 「ふっ……あははっ。まぁそういうこともあるさ。自分で名乗ることだな、塚本」 風紀委員長様を指差して笑う宮代さんとは真逆に、俺は顔を青くして床を見つめる。 この学校で、委員長様が自ら名乗るなんて皆無同然の行為。しかもそれがこの風紀委員長様ともなれば、プライドもあるだろうに………… 俺、死刑確定。 「まさか……そこまでふざけた奴だとはな……」

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