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「ドアは押さえがされてたし、床は水浸しだった。こいつがいた個室のなかはそれ以上に酷い有り様だった」 風紀委員長様の説明を聞き、“悲惨”を思い描いたであろうふたりだったが、それと同時にある謎が浮かんだらしく、ふたりとも俺を見た。 「…………ん?……なんでしょう?」 「くくっ……だろ?その状況で、こいつ自身は、全くの無害なんだよ」 「いやだから、大した事じゃないんですよ……俺にとっては」 「無害なら良かった……が、……どうやって?」 「ぇ、あー……ほら、俺ってそういうの経験豊富ですからぁあはははー」 「……」 「……」 ……全然笑ってもらえない!!とんでもなくスベった!! 「ぃい色々、対策済みなんですよ!だからっいい感じに避けられ」 「俺の助けも、断ったよなぁ?」 思い出したようにニヤリと笑った風紀委員長様に、顔を引きつらせる。 また余計なところツッこんでくる……!! 「それは、……簡単に脱出したら向こうの怒りを強める可能性があるかなぁと思って……時間を置いてから出ようと思って……」 俺が話す間ずっと、何故か宮代さんも藏元も、恐いものを見るような目で俺を見てきた。 「それなのに風紀委員長様が─」 「あ?」 「え?」 「何?」 「……え!?今!?ここからですか!?」 「必ず守れ、そう言った筈だぞ」 「ぐっ……!」 どんな状況でも他人を(もてあそ)ぶ、いじりは忘れない風紀委員長様のドSっぷりは最早職人芸。 「そんなに抵抗するな。名前で呼ぶ。ただそれだけの、簡単なことだ」 だったらそんな意地悪な笑み浮かべるなよっ……!! 「身構えず、軽い気持ちで呼んでいいそうだぞ、優」 「!!?」 宮代さんの言葉に、驚きを示したのは風紀委員長様だった。大きく目を見開いて宮代さんの横顔を見つめている。藏元はただ静かに宮代さんを睨んでいた。 「本人が言ってるんだから、何も優が気を遣う必要はない」 「……そっか。……凌平様が俺の計画を駄目にした上に大事にしてしまって、今に至ります」 「開き直って、喧嘩まで売ってきたな」 「!!調子に乗りましたすみませんっ!!!」 宮代さんの言葉に乗せられてしまった俺、わざわざ恐怖体験をしてしまった。 「……それで、これからどうするの?」 藏元は静かに、落ち着いたトーンで呟いてきた。 俺も風紀委員長様にいちいちビビりたくない。乱されず冷静に処理したい。……けど、出会ってから今に至るまで恐い事されまくってて一挙手一投足に反応してしまう。 「……んー……取り敢えず、俺からは何もする気無いし……」 「……まだ……我慢……?」 「我慢っていうか…………」 そもそも気にも止めてないんだよな……。他人から見れば、我慢してるように見えるのかな。 「お前を閉じ込めた奴等は、見たぞ」 「え!?」 このタイミングで暴露してきた風紀委員長様に驚愕する。 何故今言う!?何かの狙いがあってか!? 「み、見たというのは……?」 「トイレから走って出ていった3人。顔は分かってるからな。この後、やるつもりだ」 やる!?やるって、あれだよね!?この風紀委員長様の場合、やるって、“殺る”だよね!?それ以外考えられないんだけど!! 「ちょちょ、ま、待って、待って下さい!困ります!!」 「何が困る?」 「だ、だって、俺が誰に助けられたのか、バレちゃう可能性がっ!」 「だから野放しにしておけって?無理だ」 「なんで!?」 「俺の愉しみだからだ」 …………怖。 「俺の仕事だしな。虐めは風紀を乱す行為だ」 完全に後付けじゃん。98%くらいは趣味でしょ。仕事だからっていう説得力は全く無いよ。 「それは俺も、風紀委員長に賛成だよ」 藏元まで!!? 「虐めをこのまま放置は、……やっぱり違うと思う」 ぁそっちか。

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