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「成崎が、そういう事情を一番知ってるのは分かってるけど……成崎だけがずっと辛い思いをするのは嫌だ」
「……」
真剣に、真っ直ぐ見つめてくる藏元に気持ちが揺れる。俺だって藏元が嫌な思いをする光景は見せたくない。
でも、俺は俺が耐える以外の方法なんて分からない。
「それで、成崎」
「ん?」
「この件、俺に任せてもらえないかな」
「ぇ……?」
「大丈夫だよ。俺は、相手を虐めたいわけじゃないから」
「おい。“俺は”ってなんだ」
低い声で唸った風紀委員長様に、藏元はふふっと微笑んでスルーした。風紀委員長様相手にそんな態度がとれるなんて崇めたくなる。
「…………分かった」
「ありがとう」
微笑んで俺の頭を撫でた藏元は風紀委員長様の方に向き直ると今度は真剣な顔をした。
「……そういうわけなので風紀委員長、その3人が誰なのか、教えてもらえますか?」
「断る」
「お願いします」
「嫌だ」
「何故ですか」
「……逆に、」
先程藏元にスルーされたことを根に持っているのか、顎を上げて見下すように藏元を見た風紀委員長様はここぞとばかりに反撃し出す。
「何故、教えてもらえると思った?」
「……虐めを否定する意見は一致していると思ったのですが」
「ふん。だが、お前は成崎優を助けたいんだろ?俺は、その3人を、シめたいだけだ」
「……」
「お前に譲ってやる気は、更々無い」
風紀委員長様の最悪な返しに、藏元は言葉も出ないらしく無言で見つめている。
……ね?最低でしょ?
「……なら、」
「?」
「……どうしたら、教えてもらえますか」
藏元が申し出た瞬間、風紀委員長様は待ってましたとばかりにニヤリと笑った。
「そうだなぁ……お前が俺の下僕になったら、教えてやる」
「な゛っ!!?や、やめとけ藏元っ!!!こんなっ、こんな複雑骨折で、更正不可能な捻れに捻れたひねくれた性格の人の言うことはっ」
「殺すぞ」
「…………ア……」
つい本音が……
「…………分かりました」
「おいっ藏元!!!」
風紀委員長様の条件に頷いてしまった藏元に、慌てて制止の声をかける。この条件は100%風紀委員長様が狙って出してきたものだ。いくら藏元が欲する情報と交換とはいえ、明らかに等価交換になってない。感覚的には人質をとられた気分だ。
「大丈夫だよ、成崎」
「……でもっ、でも!」
「くくっ、安心しろ成崎優。そいつはなかなか折れない奴だ」
そう言いつつ楽しそうに笑う風紀委員長様は折れないからこそ折ってやるという、妙なやる気を出しているように見える。
しかし、何故藏元に興味を示したんだ?風紀委員長様の威圧的な態度や言動にも動じないから?それとも単なる俺への嫌がらせ?ま、まさか、いつかどこかで、風紀委員長様に目をつけられるようなことをっ……?
…………いや、それはないか。
「…………本当に……大丈夫?」
「うん」
「……じゃあ……藏元」
「何?」
「凌平様に、壊されるなよ」
「あはは、うん」
「てめぇが一番心配なのはそこかよ」
それ以外の何を心配しろと?
「藏元」
俺が警戒の意識を風紀委員長様に奪われているなか、宮代さんは静かに呟いた。
「成崎のこと、頼むぞ」
「…………はい」
静かに、ただ一言呟かれた。
藏元は何かを覚悟するように、気を引きしめるように宮代さんに頷いた。
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