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HRが始まって数分、遅れて藏元が戻ってきた。ズッキーが事情を聞こうとしたらクラスメイトたち全員が、風紀委員長様の呼び出しがあったから遅れたのであって遅刻にはならないとズッキーに猛抗議したため、セーフにされた。
いつも爽やかな藏元だけど、早朝からの風紀委員長様の呼び出しはそれなりに堪えただろうなと思ったんだけど……
「遅れてすみませんでした。間に合うと思ったんですけど、少し手間取ってしまって」
「おうおう、気にすんな!何もなくてよかったよ!」
いつも通り普段通り、爽やかに先生と皆に笑ってる。
いくら取引したとはいえ、いきなり呼び出されたら少しくらい動揺や疲れは出るだろ?
皆から労いと心配の声を掛けられる藏元を、その時俺は後ろの席からただ眺めていた。
藏元が席に着き、ズッキーはHRを再開した。
「おーし、じゃあ改めてぇ……劇の演目は決まったらしいな!」
「はーいっ」
「もう、今から楽しみっ!」
……ぇ、決まったの?ぁそう……それは……意外。意見まとまらずで今日も話し合いだと思ってたよ。
ズッキーにテンション高く答えるクラスメイトたちに感心していた俺は完全に油断していた。
「頑張ってね!成崎くんっ」
「…………は?」
「……あっ、誰か、成崎くんに昨日の話し合いの報告したぁ??」
皆顔を見合わせては首を横に振ったことで、俺ひとりだけが会話の置いてきぼりを食らっていたことに気付く。
「……えっとぉ……ウィ◯ッドの現代パロディをやるってことになったよ」
「ウィ◯……えっ、現パロ……?」
「うん!でね、演劇は2回公演が決まりでしょ?だから2公演目の主役は、成崎くんだよ!」
………………
「いぃいぃぃやおかしいだろ!なんでそうなった!」
「大丈夫!ストーリー自体はちょこっと設定を拝借するだけで、内容は全然違うから!しかも色々まとめて話も短くするから忙しい成崎くんでもちゃんと出来るよ!」
「違うって……じゃあ現パロにする意味あるのか!?」
「どんなイベントもずっと裏方やってきた成崎くんだけど、今回ばかりは表に立ってもらうからね!これは僕たちからのお願いでもあるんだ!一緒に思い出作ろうね!!」
「そっ、そういう問題じゃ」
「配役については文句受け付けませーん」
「はぁ??」
「だって、2公演目の主役の相手役は藏元くんですからぁ!」
「…………」
“ウィ◯ッド”について、超簡単に、掻い摘まんで説明しよう。
嫌われ者のエ◯ファバと、美人の人気者グ◯ンダの、愛と友情の魔法物語。
大人気ミュージカル演目で、その話自体は凄く素晴らしいものだが…………。
このクラスメイトたちが、現代パロディにして、しかもやりたいところだけを切り取ったダイジェスト版……いや、設定を少し真似るだけの全然違う別の作品にするなんて……何をさせられるのか分かったもんじゃない。
そして、相手役が藏元なんて……嫌な予感しかしない。
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