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文化祭の演劇で、まさかの主役という衝撃の知らせを受け、授業には殆ど身が入らなかった。 色々情報が多すぎて、突っ込み切れなかったけど、そもそも、ウィ◯ッドは皆がやりたがってたロマンスではなく、ダークファンタジーだと思うんだが…………いや、このクラスメイトたちは、設定だけもらって全然違うものにしちゃうのだから関係ないか。 そして昼休み、藏元と俺の席で昼食をとっていたら珍しく渡辺が俺のもとにやってきた。 用は何となく予想がつく。 「成崎くん、少しいい?」 「んー」 にっこりと楽しそうに笑って、渡辺は近くの椅子を引いた。藏元はパンを食べながら渡辺を見つめている。 「午後の準備から、衣装を作り始めたいんだけど」 「あぁ……衣装……」 ペットボトルのお茶を飲みながら渡辺が広げた紙を見る。そこには2パターンの衣装が載っていた。 「1公演目のふたりは俺と成崎くんに任せるって言っててさぁ…………成崎くんは、どっちがいいとかある?」 「どっち……ぇ……いや……」 黒い七分丈のワンピース型制服か、紺色の膝丈ワンピース型制服……。 こ、このどこからどう見ても女子の制服を、どっちを着たいか選べってか!?覚悟はしてたけど、やっぱりスカートなのか!? 俺がスカートに対する不満を顔に出してしまっていたのか、渡辺がデザイン画のスカート部分を指でなぞりながら困ったように笑った。 「斎藤に聞いたんだけど、生地とか、作り方とかを考えるとこの2つのデザインが一番簡単なんだって」 「ぁ、そうなんだ……」 2Bの裁縫・手芸担当といえば斎藤、ということで彼に聞いたらしい。斎藤が言うならそうなんだろうな。 作業考えずに文句言ってごめんなさい。 「……俺はぁ……どっちでも……いいかなぁ……」 どうせ似合わねぇし、仮面つけるし。なんでもいいだろ。 「渡辺に任せるよ」 「俺も決められないんだよねぇ」 渡辺は顔出すんだし、渡辺が似合う方にすればいい。そう思ったのだが、どうやら渡辺も決めかねているらしい。 「……あー……じゃあ」 俺と渡辺は、どちらでもいいと思っている。 作業はこのあと、午後の準備から始めたい。 じゃあ他のやつにチャチャッと決めてもらって作業を始めよう。 他のやつ、ということは第三者。 今、この場にいる、第三者…… 俺は視線をすぅーっと、パンを食べ終えたイケメンに向ける。 「……藏元、どっちがいい?」 「……ぅ?」 「ぁそれいいね。藏元くん、パッと見、どっちがいいと思う?」 綺麗な顔を綻ばせ渡辺も藏元に視線を移した。藏元はパンの袋を持ったまま俺と渡辺を交互に見てきた。話を振られるとは思っていなかったらしい。 「……えっと……俺、が……決めるの?」 「俺も渡辺も、どっちでもいいと思ってるから」 「どっちを選んだってスカートだからね……」 ため息混じりに渡辺が呟いた。 どんなに綺麗な顔だろうが、渡辺も男だもんな……スカートに戸惑いを感じるのは同じか。 「……」 「恨まないから、軽く考えてくれていいぞー」 真剣な眼差しで紙を見つめる藏元に、気負うなと声を掛ければゆっくりと上がってきた視線。 「……黒は喪服みたいだから、紺のほうがいいと思うな」 その一言は、目が眩む程の笑顔を添えられて呟かれた。藏元のその究極の攻撃に抗える者を、俺はまだ知らない。 「ぁ……う、うん……ありがとう……じゃあ、紺にする、ね……」 見とれて、照れて、言葉すら片言になりながら、渡辺は紙を手にすると熱を冷ますようにその場から逃げていった。

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