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昼食を食べ終えて十数分後、昼休み終了のチャイムが鳴った。 午後はそのまま文化祭の準備に入るので、生徒たち皆がそれぞれの準備作業のため席には戻らず作業チームのもとに集まっていく。 俺と藏元は、衣装製作のグループに加わることになった。 裁縫はそんなに得意じゃない。家庭科の授業で習った僅かな技術しかないので、そのグループのリーダーである斎藤の指示を待つ。 「じゃあまず、サイズ図るから、なるべく薄着になってほしいな」 「あぁそっか……了解」 「はぁい」 斎藤の指示に従い、シャツを脱ぎTシャツになる。どの部位の採寸をするのか、俺にはさっぱり分からないのでメジャーを手に持っているクラスメイトふたりに体を任せて好きなように図らせる。 渡辺も同じように出来る限り薄着になって、その場に突っ立って採寸を待っていた。 「えーっ」 「ちょっとぉ……まじですかぁ」 「……何?」 俺の採寸をしてくれていたふたりが、図りながら奇妙なリアクションをした。 「成崎くん、思った以上に細いんだねぇ。俺たちより全然細いじゃん」 「どうしたらそんなに痩せられるのー?」 「……」 痩せるコツを聞いてくる彼らは誤解している。決して羨ましがられる事じゃないんだ。 むしろその逆で、現在進行形で、ご飯食べて筋肉つけようとしているところなんだけど……全然つかねぇんだよ!!! 「成崎くんって間食とか食べちゃう人?」 「俺、どうしても夕御飯のあとにおやつ食べちゃうんだよねー!」 「それ!デザート気分でめっちゃ食べちゃうんだよねー」 「間食って……どんなの食べてんの?」 盛り上がるふたりに、参考までに聞いてみる。体を大きくする方法は、もしかしたら食べる回数も関係しているのかもしれない。 「普通のお菓子だよ。チョコとかポテチとか」 「俺もー」 「……でも、お菓子食べたらご飯食べる気にならない……よね?」 「でも食べるよ?ね?」 「うん」 平然とご飯とおやつは別物と言い切った彼らとは話が合わない。結論、彼らに聞くのはやめておこう。筋肉をつける方法は、別の人に…… 「成崎は、少食なんだよね」 そう一言呟いてきた藏元は、椅子に座って俺たちの採寸をただ眺めていた。藏元の採寸は俺たちが終わってかららしい。 「甘いものは好きなんだけど、少食だから、お菓子食べたらご飯食べられないと思うな」 「そんなことねぇよ。俺だってそれくらい」 「じゃあもともと細いんだ?羨ましい」 「あのね……俺はムキムキになりたいので、細いとか全然嬉しくないんだけど」 「でも今回は女装だし、細いから似合うんじゃない?」 「だよねー!」 細いのも、女装が似合うのも、全然嬉しくないんだということが何で伝わらないんだ……。 上半身を図り終えて、ふたりが屈んで下を図り始めたとき、校内放送を知らせるチャイムが鳴った。 「2年、藏元玲麻ぁー3分以内にさっさと来ぉい」 突然始まった放送はそれだけ告げると、ブツリと切られた。 来い、と言ったくせにその場所は告げない。こんな横暴な言動は、誰、と聞くまでもない。 「…………」 「…………」 「…………」 皆が口を噤み、藏元に視線を送る。藏元は椅子から立ち上がると、小さく笑った。 「……ちょっと外すね」 「……」 朝もこんな感じだったんだろうか。 静まり返った教室をあとにする藏元の背中を、俺はただ無言で見送った。

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