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電話を切ってから数時間、夕食も風呂も宿題も済ませてあとは寝るだけになった。 “1回、切るね” 「1回って、なんだよ……」 握りしめた携帯電話に文句を呟く。 1回切って、また掛けてくるってことじゃねぇの? それともそっちはまだ忙しいとか?忙しいなら……仕方ないけど……。 いやそもそも、掛けてこられたってこっちの話は説明できるほど整理できてないし。 つーか、お前の方こそ走り回って何してんだよ?俺には話せって言うくせに、藏元は何してるか話してくれないじゃん……。 「もう……寝ますよー」 聞こえる筈もないのに、携帯電話に向かって呼び掛ける。 これじゃ俺が電話待ち遠しくしてるみたいじゃね?あっちがかけ直す的なこと言ってきたから待ってるだけであって、俺が電話したいわけじゃねぇし。話すことなんか無いし。 ……て、誰に言い分けしてるんだろう。 「…………寝よ」 携帯電話をテーブルに置いて、ベッドに潜り込む。 明かりを消して、目を閉じて、眠りにつこうとしたら今さら電話が鳴り出した。 「……やだよ」 また、聞こえる筈もない文句を言う。まだ鳴り続ける呼び出し音。 「……寝てます」 丸まって、聞こえないフリをする。ギュウッと目を閉じて、知らない知らない知らないと心のなかで連呼していたら……、切れた。 「……よし」 静かになった寝室。息を吐いて、体の力を抜いて、寝返りを打って、寝ようとする。 ……………………………………。 「……あー…………もう」 ムクッと起き上がり、携帯電話を取り、先ほど掛かってきた番号に折り返す。 4コール目で繋がった電話。第一声は控えめな声で囁かれた。 「もしもし……ごめんね、寝てた?」 「…………」 「……成崎……?」 「…………」 「……繋がってるよね……?寝てる?」 「……起こされた」 狸寝入りだけど。 「!ごめんっ、俺がこっちで結構手間取っちゃったから」 「……何してたの?」 「あー……何、ていうか……」 途端にはっきり言わなくなる藏元に、やっぱりねと内心思う。 「まぁいいや。電話の用件は?」 「様子が変だったから直接会いたかったんだけど」 「……」 「時間が遅くなっちゃったから、せめて電話で聞かせてほしくて」 「……まだ言わない」 「ぇまだ?」 なんで今教えてくれないの?って、藏元の心の声が聞こえた気がした。 「藏元だって何してるか言わないじゃん。だから、俺もまだ言わない」 「それは、事情が違うだろ?」 「嫌だね。言わない」 否定を繰り返していると、電話越しにため息を吐かれた。 「あのね……俺と成崎じゃ、今ある立場が違うでしょ」 「俺の今の問題は、嫌がらせとは関係ねぇし。言わない」 「もう……頑固だな」 呆れられた一言にちょっとムカついて、無意識に声の音量が上がる。 「藏元には言われたくないんですけど」 「俺はそこまで頑固じゃないよ」 「いやー?そうでしょうか?それについてよく考えてみましょうよ」 「俺が頑固なら、成崎は意地っ張り?剛情?」 「どっちも同じだろ。言葉変えただけじゃん」 ハン、と鼻で笑えば少し間を置いて藏元もクスクス笑い返してきた。 「ふっ……はは。……分かったよ。」 「何が」 「まだ、聞かない。言ってくれるまで待ってるから」 「……」 「でも、これだけは教えて。怪我するようなことじゃないよね?」 藏元も宮代さんも、俺を心配する一番の理由はそういうところなんだろうな。 「……俺ってさ」 「うん?」 「見ててそんなに危なっかしいのかな」 「……そうじゃないよ。でも、少しでも危ないなって思うんだったら、自分ひとりで何とかしようとするんじゃなくて……頼ってほしいんだ」 「……頼る……」 「頼らないから、頑固に見えるのかもよ?」 「だから藏元に言われたくねぇって!」 「あははっ。だから、頼ってね?成崎」 「…………おぅ。ありがと」 寝る時間なのに、完全に目も覚めちゃったけど、藏元の声が聞けて話ができて、気持ちが少し落ち着いたのは確かだ。

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