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それから数日後、文化祭を目の前に控えた今日は衣装や舞台、演劇の最終チェックを行っていた。 2Bの生徒たちが設定だけをパクって書き上げた物語は、なんていうか……別にウィ◯ッドじゃなくてもありそうな、ベタな物語になっていた。 緑色の肌の主人公(俺)はその見た目から虐められ、学校1の嫌われ者だった。そんななか成績優秀で美人で人気者の生徒(渡辺)と出会い、喧嘩しながらもお互いを理解し友人になっていく。 そして、学校の王子様(藏元)の目に止まり、意気投合し恋に発展するという…… 魔法世界どこ行った?ダークファンタジー設定どこ行った?ただの恋物語になってるじゃん、とツッコミ満載の物語になっていた。 言いたいことはたくさんあるけど、ここまで来てしまった今、何を言っても手遅れなので俺は黙って台詞と動きを最終確認する。 「藏元くん、俺たちと殆んど演技合わせられてないけど……大丈夫かな?」 「……藏元だし、大丈夫だろ」 台本を持って壇上に一緒にいた渡辺に、特に心配する必要はないだろと笑う。 今現在、この確認の場に藏元はいない。 例の如く、下衆委員長に呼び出されたのだ。そのせいで藏元はこれまでもずっと、ろくに練習できていなかったのだ。 でも藏元はどんな事でもそつ無くこなす奴だから、台詞も動きも2、3回で頭に入ってると思う。 それに、あいつの役は王子様だし。 藏元は普段から王子様みたいなもんだからその素振りくらい朝飯前…… バシッ 「!?どうしたの???」 自分をビンタしたら、目を真ん丸にして渡辺に驚かれた。俺完全に変な人だったよね。 「ごめん、自分の思考に吐き気がして……正気に戻してた」 「そ、そうなんだ……?」 渡辺は苦笑いして目を反らした。 藏元を王子様って……いやそうだけど、そうじゃなくて、考え方が乙女過ぎるだろ俺。ほんと気持ち悪い。 ため息を吐いた俺と困惑する渡辺が少し気まずい空気になって舞台に突っ立っていると、教室にひとりの生徒が駆け込んできた。 「ねぇねぇねぇねぇ!!凄いもの見ちゃったよぉ!!」 「??」 「何々??」 「買い出し行ったんじゃなかったの??」 「手ぶらじゃん」 皆それぞれ疑問を持ちつつ、その生徒に注目する。その生徒は興奮ぎみに身振り手振りで語り出す。 「今、校舎前広場でっ!風紀委員長様と!藏元くんが!一緒に歩いてるところ見ちゃったよ!!」 ……ぇだから?そんな大騒ぎすることじゃないだろ?あの御方に呼ばれたなら一緒にいたって普通…… 「うそー!?まだそこにいるかな!?」 「僕も見たい!!」 「ツーショットが拝めるなんて超運いいじゃん!!」 「でしょー??」 ……あーそういうことか。呼ばれても、何処かの室内に呼ばれてたら姿は見られないからね。ふたりが並ぶ姿は珍しいのか。 「で?で?何話してた!?どんなことしてた??」 「そ、それはぁ……」 そこで一旦言葉を切った生徒は何故か俺に視線を向けてきた。気まずそうに、でもどこか楽しそうに笑って再度口を開いた。 「内容は聞こえなかったけど、何か話しながら笑いあってたよ!!」 「わ、笑いあってた……!!?」 「何その眩しすぎる光景っ!!」 「その場所に立ち会えるなんてっ羨ましすぎるよぉ」 2Bの生徒たちがピンク一色の空気になるその話を、俺は鳥肌が立つほど怖いと思った。 あのふたりが笑いあうなんて……君たち、全っ然分かってないよっ。 あのふたりの笑顔は本来なら皆の思うような使い方なんだろうけど、そもそもあのふたりは笑顔の使用方法間違ってるんだから! 風紀委員長様は誰かを苛めたいと、ドSな発想が浮かんだときに笑うんだから! そして藏元は、そういう相手に対して笑うときは超喧嘩腰なんだから! つまり、そのふたりが笑いあってるってことはバッチバチに険悪状態で空気最悪ってことだから! あの圧死しかけた空気を思い出して身震いしたら、隣にいた渡辺が背中を擦った。 「藏元くんは大丈夫だよ」 「……ぁ……うん…………?」 多分渡辺も誤解してるけど……訂正も面倒だしいいや。 藏元くんは風紀委員長様に盗られたりしないから、と全然違うフォローをしてくる渡辺の言葉を、ちょっと戸惑いつつ聞き流した。

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