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風紀委員長様と藏元の話で大盛り上がりの教室内では、これからでも広場に行くべきか諦めるべきかの議論が繰り広げられていた。 俺は台本を片付けて、飾りつけの最終作業の手伝いに加わってその盛り上がりから距離をとる。 「はぁ……本番ってあっという間に来るよね」 「?……なんか嫌なことでもあるの?」 隣で一緒に作業を始めた渡辺が憂鬱そうに呟くので、手は動かしたまま聞く。 「うーん……今年の文化祭ね……両親が見に来るっていうから」 「……あぁ。午前中は一般公開だもんな」 「お母さんお父さんは学校の事情なんて知らないからさぁ……」 ……そりゃそうでしょ。色々と凄すぎる学校事情を、誰が正直に両親に言えるっていうんだ。 「しかも見に来た息子の姿が女装って……色々困るよ」 「確かに。親によってはがっかり幻滅、だろうなぁ」 「そういう成崎くんも女装でしょ。親とか中学の友達とか、来ないの?」 「地元からは結構離れてるし、両親は共働きだし、だから俺は心配なし」 「いいなぁ……やっぱり女装姿は見られたくないよ」 「ははっ。渡辺は似合うから大丈夫だって」 「ねぇ、それ全然フォローになってないよ」 項垂れながらも仕上げ作業を終え、渡辺と俺は立ち上がった。教室内を見渡して声を張る。 「……おし。あと終わってない作業とかあるー?」 「こっちも終わったよー」 「全部完成じゃない?」 「あとは本番を待つだけだよー」 教室内にいる生徒が少し少ない気がする。 ……ツーショットを見ようと、一か八か行った奴等がいるらしい。 「じゃあ今日は解散で。明日に備えてー」 「はーいっ」 その合図で皆が片付け作業に切り替えた。集まったごみをごみ袋に入れ袋の口を縛る。 「ごみ捨ててくるけど、捨ててくるもの、他にある?」 「無いよー」 「大丈夫ー」 「えっ、成崎くんが行くの??」 皆が返事をするなか、ひとりが不安の一言を漏らした。その瞬間に変わってしまった空気を、掌をヒラヒラと振って否定する。 「大丈夫だよ。最近は飽きられたのか、殆んど何もされなくなったから」 「……本当に?」 「ん。本当。」 悪口や脅迫の手紙はたまにあるけど、その程度だ。拉致とか体当たりとかは無くなった。 「…………で、でも……もしものことがあったら僕たち」 「不吉なこと言うなよ。そういうこと言うと何か起きちゃうから。」 ごみ袋を持ち上げため息を吐けば、皆は首を傾げる。 「そうなの?」 「そんな予感がするって話」 「いやいや!成崎の大丈夫は危ういからな!俺も一緒に行くぞ!」 「いいって。ごみ捨てくらいひとりで─」 付いてこようとするクラスメイトに手を翳して断っていたら、背後の扉が開いて爽やかに呟かれた。 「皆、大丈夫だよ。俺も一緒に行くから」 「…………おっす……おかえり」 「ただいま。皆、成崎を心配してくれてありがとう」 爽やかな登場、爽やかな挨拶、爽やかな笑顔。 ……何?劇ってもう始まってんの?もう王子様役になりきってんの?はっきり、正直に言うぞ? 格好いいね。 きゃー、と歓声でどよめく教室内。盛り上がる生徒たちを放置して俺が持つごみ袋を奪った藏元は行こ?と微笑んできた。 「…………てか、君がここにいるってことは……あいつらは無駄足になったわけか」 「?……何?」 「ううん……」 ツーショットを拝みに行った奴等に同情しつつ、俺は藏元のあとを追った。

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