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ごみ捨て場に向かって廊下を歩いていると、周囲の空気が最近と少し違っている気がした。 陰湿というか、憎悪というか……冷たい視線が以前より少ない気がするのは、気のせい?隣に藏元がいるから? 「……つーかさ、」 「何?」 「俺手ぶらなんだけど」 「?うん」 「いや、うんじゃなくてさ」 「?」 「これじゃごみ捨て場に、俺行く意味なくない?」 「俺が一緒に行きたかっただけから」 「そ、いう……ことじゃなくてさ、」 そう言われたくて聞いたみたいになるじゃん……。 恥ずかしくなって顔を反らす。話題を変えようと考えていたら、先程までのあの騒ぎを思い出した。 「……さっきまで、風紀委員長様と歩いてたんだってな。奇跡のツーショットって、騒ぎになってたよ」 「何それ?……歩いてただけだよ?」 何故それだけで騒ぎになっているのか不思議に思っているようで、藏元は首を傾げた。 「まぁどっちもイケメンだし、目の保養になるってことじゃない?」 「…………」 「……何?」 何のリアクションもせずただ俺を見つめてくる藏元に、何か失言でもしたかと控えめに見上げる。 「……イケメン……」 「ん?」 ボソリと何かを呟いた藏元は、口角を上げてフフッと笑った。 「……ありがとう」 「……は?」 「やっぱり……ちょっと照れるな……」 「何……意味分かんねぇ。藏元の、そういう笑ってるところも、騒ぎになるんだからな」 「……?」 「さっきの騒ぎだって、ふたりで笑いあってたってことで皆が盛り上がってたんだし」 「笑い……?そんなほのぼのした会話なんてした覚えないけど」 今度は眉間に皺を寄せた藏元に、やっぱり風紀委員長様とは険悪な雰囲気だったのかと確信する。 「……ぁ、そうだ」 「ん?」 風紀委員長様との散歩の記憶を思い返していた藏元は何かを思い出してポケットに手を突っ込んだ。 「はいコレ」 「……何?」 差し出された掌には、飴玉が片手いっぱいに乗っていた。少しでもバランスが崩れれば溢れ落ちそうだ。 「さっき、少しだけ話した子がくれたんだ」 「……この量を?」 「ぁ最初は断ったよ?でもなんか……押し負けちゃった……あはは」 「話って……どんな話したら、飴貰う、に繋がるんだよ?」 「俺の話しかけるタイミングが悪かったんだよね。その子、回りの友達に配ってたんだ。そこで俺が話しかけちゃったから……渡さないわけにはいかないと、気を遣わせちゃったんだよね多分」 「……」 困り顔で笑う藏元に呆れてため息を吐きたくなる。 この量はさぁ……飴食べる人~?のノリで配る量じゃねぇよ。その子完全に君を意識してる子だよ。藏元を目の前にしてテンパって、それでも最大限示したその子の気持ちだよ。藏元って……慣れてるのか疎いのかよく分からないな……。 「風紀委員長様も飴貰ったの?」 「その時は一緒にいなかったから」 「…………あっそ。これは君が責任を持って食べなさい」 「……なんで?」 「言わせんな。食べながら、自分で考えろ」 「…………ぇあ、いや違うよ!!そういう意味のものじゃなくて!」 貰い慣れてるだけあって、俺が言わんとすることを察するのは早い。 「そういう意味のものだから。どう考えても」 「違うんだよ。コレ貰うとき、その子に言われたんだ。“成崎くんの分も”って」 「は??」 何それ?その場にいない俺の名前出すか普通?しかもその子藏元ファンじゃないの?そのファンからすれば、今の俺は諸悪の根元みたいなものだ。そんな俺にわざわざ藏元を通して飴をくれる?……どう考えてもおかしいだろ。どっきりグッズが混ざってる飴?毒入り飴?それとも藏元の作り話? 「怖いからいらない」 「えぇ?怖いって何?」 「俺にも、なんて意味不明。言われる意味が分からない。それか、藏元が嘘ついてる」 「嘘??嘘じゃないよ、ちゃんと言われたよ」 「…………」 「……成崎、全員が敵ってわけじゃない、味方もいるってことだよ。大丈夫だから」 …………確かに……それは……そう、なのかな……。2Bの皆がそうだったんだ。……そこまで警戒する必要もないか?

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