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「…………失礼しました。ビビり過ぎだよな、俺」
俺が漸く折れたことに満足げに微笑んだ藏元はを歩みを止めて、再度飴が乗った掌を差し出してきた。
「好きな飴どうぞ」
「……じゃあ……」
味ごとに違った色の包装紙に包まれている飴をじっと見つめる。
全部美味しそうな飴……だけど……
俺はひとつの飴に決めて、それを取ろうと手を伸ばした。
「練乳イチゴ味」
取ろうとした飴の味は、取る前に藏元に言い当てられた。それにピクリと反応して、取ろうとした手を止める。
「……?」
「やっぱりね」
何が楽しいのかクスクス笑っている藏元。あぁ俺の思考が完全に読まれたんだと理解して、ちょっと悔しくなった。
「なんだよ、甘党バカにしてんのか」
「ううん。成崎の好きなものを当てられて、単純に嬉しかった」
「やっぱ思考が単純で読みやすいってバカにしてんじゃん」
「えー?そんなこと思ってないよ」
飴を奪って不貞腐れる俺に、困りつつも笑う藏元。
そんな俺たちのすぐ横を生徒たちが通り過ぎていく。俺たちをチラチラと見ては、コソコソと何かを囁く。
「藏元様、笑顔も素敵」
「すごく楽しそう」
「一緒にいる人が、例の?」
「なんか……思った以上に普通の人ぉ」
「ほんとにあの人が、髙橋様のライバルだったの?」
「でも噂に聞いた話じゃ、藏元様があんな風に笑いかけるのはあの人にだけらしいけど……?」
「じゃあ内面の魅力ってこと?」
「それも素敵ぃ」
好き勝手想像を膨らませて噂を囁く彼ら。
その会話は聞くべきじゃなかったと、急激に恥ずかしくなった俺は顔を伏せるように下を向いた。
「……成崎?」
「……俺……藏元に対しての態度、変わってない?」
「え?」
「友だちのときと今と……同じように話せてる?」
「……どうかな。分からない」
「……」
変わらない態度で接しようと思っていたけど、自覚の無いままやっぱり浮かれていて、気取った態度をとっていたのなら恨まれるのも無理はない。
俺の、こ、恋人面なんか……他から見たら不快だろうから……。
「でもずっと、楽しいよ」
「ん……?」
「出会ってからずっと、成崎とはちゃんとお喋りできてると思う」
「……」
「これからもそうでありたいと思ってる」
「…………おぅ……」
“これからも”
その言葉がどれだけ嬉しいか、伝えたい。なのに俺は、微笑んでくれた藏元に頷くことしか出来ず伝えたい思いは腹のなかに留まった。
今の俺にとって将来の話は、不安なものでしかないんだ。
それだけ自分に自信がないってことだし、それだけ藏元が好きだってこと。
応えられなくてごめん。言葉で返せなくてごめん。
不器用な俺なんかに優しくしてくれる藏元に、心のなかでただ謝罪し続けた。
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