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お兄さんのほうはとんでもなく怖いけど、あんなに純粋な弟だったら俺も欲しいかも。
兄弟って言ったって全く似ないパターンもあるんだな。
お母さんを探すって言ったけど衝撃的過ぎて、お兄さんに任せて逃げてきちゃったし…………これだけ違う兄弟を育てたお母さん、ちょっと見てみたかった。
不安げに見上げてきた弟と、嘲笑い見下ろしてきた兄、それぞれの顔を思い浮かべながら広場を歩いていく。
回りの人たちが好奇の目で俺を見てくるので、そろそろ知らんぷりも限界が近づいてきて、脳を切り替える。
渡辺と早く合流しよ……取り敢えず、さっき別れたところに行けば会えるかな?撮影会、まだ終わってなかったりして……。
「あのぉ、成崎くん」
「?はい?」
周囲に渡辺がいないことを確認しながら歩いていれば、突然背後から呼ばれた名前。俺を呼んだその声は、ここの生徒では有り得ない声で、でも聞き覚えのある声だった。
特に考えもせず振り返れば、いきなり眩しく光った視界。
「???」
「やっぱり成崎くんじゃーんっ」
携帯電話をこちらに向けてケラケラ笑う女の子がひとり、そこに立っていた。
「…………なっ、なんでいる!!?」
「えー?サプライズー!驚いたぁ?てか、すーちゃんってそんな格好してくれるんだ?そういうの、昔は絶対嫌がってたじゃん?似合うじゃん!可愛いじゃんっ!」
「じゃんじゃん煩い!!なんでお前がここにいるんだよアミ!!!」
「だからぁサプライズだってぇ。ほら、すーちゃんのおじさんおばさんはどっちも仕事でしょ?去年は行けなかったし、今年も無理そうだから、じゃあせめてアミちゃん、行ってきてくれない?って頼まれたの!」
「来なくていいって言ったのは俺だから!誰でもいいから来てくれなんて一言も言ってねぇよ!!」
「おいおいすーちゃん。親心が全然分かってないなぁ。我が子の楽しむ姿をなんとかして見たいって思うのが、親というものだよ」
「……だからって、幼馴染み送り込まないだろ」
「ていうことで、はい!記念撮影!可愛い姿をおじさんおばさんに報告しなきゃ!」
「うわっ!?やめ、おい、やめろ!!アミ!!!」
俺の抵抗お構いなしにパシャパシャと連写しだすアミから携帯電話を奪おうとしていたら、別の方向から声を掛けられた。
「えっ、優くんなの?」
「……ぇ……?」
今度は声に馴染みが無くて、疑問を残したまま振り向いたらめっちゃ華やかな、“綺麗な女子”が立っていた。
「すごーい!後ろ姿、ほんとに女の子かと思っちゃったよー!スタイル良くて羨ましいなぁ!」
「……ぁ亜美さん……っ!?」
例の、あの合コンにいた、藏元の元カノが、なんでここにっ……!?
「名前、覚えててくれてありがとう」
ふふっと笑ったその笑顔はまさに天使の笑顔。周囲の来場客たちが見惚れている。
「ぁ、亜美ちゃんを連れてきたの」
言うの遅い。
「……なんで……」
「優くんは私との思い出は嫌な思いした会話が最後だから、会いたくないっていうのは分かってたんだ。でも、直接謝りたくて。歩生ちゃんにお願いしたの、優くんに会いたいって」
「……わざわざ、そんな……」
「ううんっ。優くんに言われたこと、ちゃんと考えて確かにそうだなって思ったんだ。私も、話を聞くべきだったんだって。あのときは嫌な思いさせちゃってごめんなさい!それと、私を叱ってくれてありがとう!」
「…………」
藏元に会わせたくない。藏元と鉢合わせる前に帰ってほしい。なんでここに来た。
……そればかり考えていたけど、亜美さんの誠心誠意伝えてくる言葉が俺の拒絶の気持ちを緩めていく。
「それで、その……タイミングおかしいでしょって、また怒られちゃうかもだけど……よかったら、私と友だちになってほしいんだ」
「……は?」
前回の合コンで空気ぶち壊した上に自分にキレてきて、再会してみれば女装してる男子にこの綺麗な子は何を言っているんだ?
「今まで、こんなにちゃんと間違ってるよって教えてくれた人、いなかったから。こういう人こそ大切にした方がいいんだなって思ったんだ」
「……あぁ……それは……そういう人は大事にした方がいいとは思うんですけど……」
あなたが貶した人物が藏元だったから俺は怒ったわけで……決してあなたの為とかではなく……
「だ、駄目……かな……?もう私は無理?」
「いやその……色々と誤解が……」
好意はない。だけど俺も、一応10代の男子高校生でして…………可愛い女の子に見つめられるとそれなりにドキドキはしてしまいまして……。
不安そうに見つめてくる亜美さんに対して、視線が落ち着かずオロオロする俺。
その時急に、右腕が背後に引っ張られた。
「!!!?」
「成崎何してるのっ」
「……えっ!!?」
「……あっ!!え!?亜美ちゃんこの人写真のっ!??」
少し怒気を含んだ焦った声で現れた藏元を見て、亜美さんと歩生は驚愕した。
俺はまぁ、絶望だよね。
「なんで河村と成崎が一緒にいるんだよっ」
やばいやばいやばい。
非常事態。最悪の状況がやって来た。
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