253 / 321

253

「…………」 「…………」 「…………」 「……はっきり言えば。」 「何を?」 「どうせもう全部察したんだろ」 「……ぁうん。だってうちすーちゃんの幼馴染みだし。表情見てれば大体分かるよねー」 「偏見でも罵りでも、言いたいこと言えば。」 「……でもすーちゃんはうちのこと全然分かってないねぇ」 「……」 「あの人を見てれば分かるよ。すーちゃんのこと大切なんだなぁって。すーちゃんは鈍いけど馬鹿じゃないから。すーちゃんが好きになった人ならきっと大丈夫だし、うちはすーちゃんが幸せならそれでいいと思ってるから」 「…………」 「……あっ、でも流石におじさんおばさんにはうちからは言えないからね!?そこはちゃんと自分から言うんだよ!?」 「そこまでお願いしてないだろ!!絶対言うな!!」 ブンブンと手を振って拒否する歩生にはっきりとお断りする。 そこへ、俺の本来の目的だった人がやって来た。パタパタと走ってきた美少女、じゃない、渡辺。 「成崎くん!やっと見つけた!」 「……え!!?この人も男子!?凄いクオリティ!!」 「ぁえ……?成崎くん、この人は……?」 「俺の幼馴染み。渡辺、ごめん。歩生を教室まで案内してくれる?」 「!見に行っていいの?」 「来んなって言っても来るんだろ。ここにも来てるんだし」 「うん」 「即答かい」 にこにこ笑う歩生に、俺はちゃんと笑えているだろうか?見透かされていないだろうか? 「案内はいいけど……成崎くんは?」 「俺はちょっと用事済ませてくから」 「……うん、分かった。2公演目までにはちゃんと戻ってきてよ?」 「はいはい」 渡辺についていく歩生を見送って、その場から静かに立ち去った。 ***** 自分の頭のなかがごちゃごちゃになってて、精神状態は不安定そのもの。 藏元のことが好きだ。でも、藏元は見た目も性格も完璧で、絶対俺なんかじゃ不釣り合いだ。藏元と亜美さんを見て、強烈に思ってしまった。亜美さんみたいな美女が隣にいた方が絶対しっくりくるに決まってる。だから、好きな人の将来を大切に思うなら………… 膝を抱えて丸まって、目を閉じて静かに考え込んでいた。吹いてくる秋風は、肌寒く感じるほどには冷たい。周囲の植物が風邪に撫でられサワサワと音を立てるここは、俺の逃げ場、ガゼボ。本無しでここに来るのは久しぶりだ。 ひとり静かに考え込んでいると、コツコツと人の足音が小さく聞こえてきた。 「女の子がひとりでこんなところに来たら危ないぞ」 「…………女じゃねぇっす」 今はそんな冗談に乗れなくて、唸るように呟きながら顔を上げれば、男前が優しく微笑んでそこに立っていた。 「…………継、さん……」 ちょっと驚いた。……いや、こんなところに来る人なんて、この人しかいないか。 「どうしたんすか……」 「……優こそ、どうした?」 「……別に……何も」 「……何も、か。……ここじゃ放送も聞こえないもんな。悩みに集中しちゃうよな」 「放送?…………あっ!!!!」 言われて腕時計を見れば、2公演目の開演時間はとっくに過ぎてて、もう劇終盤の時間だった。 「やっば……ど、どうしよっ俺、」 「いない理由は俺がそれなりに誤魔化してきたから大丈夫だ。優の役は、1公演目の生徒がもう1度やってる」 「ほんとすいません…………はぁー……あとで謝んねぇと……」 頭を抱えて大きくため息を吐く。時間忘れるほど悩んで他人に迷惑かけるとか、最低すぎるだろ俺…… 「優、話してくれ」 「…………何もないっすよ」 横に座った宮代さんのほうは見ないように呟いた。この人だって相当忙しい筈なのに、俺の悩みなんかに構ってられない筈だ。 「…………藏元のことだろ」 「……継さんには、話したくないっす」 「……なんで?」 「…………だって」 宮代さんはノンケだ。ずっと俺の味方でいてくれた人だ。その人に、今の俺の恋愛相談なんてしたくない。俺は、宮代さんに軽蔑されるのが堪らなく……恐い。 「…………俺が、同性を好きになった優を嫌いになると思ってる?」 「っ……」 言い当てられてしまって、下を向いたまま肩を揺らした。 「……あのな優、……俺も」 「……」 「俺もひとりだけ、同性を好きになったこと、あるんだ」 「えっ!!?」 信じがたい一言に、ひたすら背けていた顔を向けてしまった。 だってずっとそっち側じゃないと思ってたから。友だちとじゃれ合うことはあっても、絶対あり得ないと思ってたから。 「……その人は別の人と付き合って、俺は友だちのままだったけど」 「…………なんで、告白しなかったんですか……」 「……そのふたりが、両思いだって知ってたから」 「……でも、継さんなら……」 「いや。両思いだから、その人が幸せそうだったから、俺は友だちでいいって思えたんだ。その人が幸せでいれるように、友だちとして支えたいって」 その人を思い出しているのか、まるでその人を見るように俺の頭を撫でてきた。その人は、なんて幸せ者なんだろう。 「……辛くないんですか、傍にいて」 「もし告白して、その結果傍にいられなくなる方が、俺には辛い。」 「……」 「だから優。俺も結局同じだ。軽蔑なんかない。話してくれ」 「…………あの……」 震える唇からポツリと、言葉を溢した。

ともだちにシェアしよう!