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「……ぉ、れ……俺、自信が全くなくて……」
「自信?」
「……藏元に好きになってもらえるような……それがずっと続くような要素なんて、俺には無いし……」
「……」
「俺よりもっと相応しい人が、いるんじゃないかって……ずっと……」
俺がポツポツと話す間、宮代さんは黙って耳を傾けるだけ。ずっと溜めてきた不安は、一言言葉にすると箍が外れたように次々に溢れ出してきた。
「なら……これ以上深入りする前にいっそ……」
「……優は、別れたいのか?」
「…………」
宮代さんの直球の質問に、俯いたまま無言で首を横に振った。
「…………藏元の話は、知ってるのか?」
「…………話?」
「最近の、藏元のこと」
「……何も……」
宮代さんの言いたいことが分からなくて、眉を寄せた。
俺とのことで、周囲に藏元が何か言ってるってこと?じゃあ藏元も、別れようか悩んでるのか?じゃあやっぱり……
俺が唇を噛んだとき、隣の宮代さんが大きなため息を吐いた。
「ったく、あいつは……何やってんだよ……」
「??……あの、……?」
「……優も、気を遣いすぎだ」
「え……?」
「お前たちは、どっちも互いを思ってるのに……全然伝わってないんじゃ意味ないだろう?」
心底呆れた様子の宮代さんは腕を組むと俺に笑いかけてきた。
「嫌がらせ、減ってるだろ?」
「え?……ぁ、はい」
「どうしてだと思う?」
「……ぁ、飽きられた……から?」
「違うよ。藏元のおかげだよ」
「!?」
「塚本に頼み込んだそうだ。嫌がらせする奴等を説得させてくれって。説得するから罰則は無しにしてほしいってな」
「説得って……藏元が俺を庇ったら、ファンは余計に……」
「そこはあいつ、かなり頑張ったんだろうな。相手とちょっとした約束は交わしたらしいが、殆んど解決したようだし」
「約束……すか?」
「詳しい話は本人から直接聞いてくれ。俺から全部聞いたんじゃ、藏元がよく思わないだろ?」
「…………」
「だから、優と一緒にいたいって、藏元もちゃんと思ってるよ」
微笑んで俺の頭を再度撫でてきた宮代さんはどこまでも優しくて、正真正銘俺のヒーローだ。
「俺って……何も分かってないっすね……」
「優だけじゃなく、あっちも分かってないと思うけどな」
「藏元が頑張ってくれてたこと、全然知らなかった……」
そんなときに俺はなんて勝手なことばかり考えてたんだ。だから宮代さんには再三言われてるだろうに……相談しろって……。
「……さて。行けるか?優」
「……はい?」
「時間的にもう一般公開は終わりだ。ここからは学生のみの文化祭がスタートするだろ」
「ぁそうっすね」
午後は生徒たちが楽しむ文化祭。俺もいい加減戻らないと2Bのやつらに怒られそう……
ベンチから立ち上がりスカートの皺を伸ばした。
「午後の公演には優が出るって言ってあるから、頑張れよ」
「え!?」
ガゼボの屋根の下から出た宮代さんに重大な事実を知らされ、俺は思わず大声を出してしまった。
午後の公演というのは、生徒たちが生徒たちのために公開するラスト公演のこと。
一般公開と違って知った顔ばかりの客だから、何をやっても大丈夫な気楽な公演ではあるけれど、舞台に立たなくて少し得した気分だった俺としては、急にやって来た緊張感にがっかりした。
「せっかく主役をもらえたんだ。ちゃんと出て、思い出つくれ」
「うーん……思い出になるでしょうか……むしろ黒歴史になるんじゃ……」
「やってみないと分からないな。そうならないよう頑張れ」
「え、鬼ですか?」
「いいえ、生徒会長です」
「ちょっ、こういうときだけ学校側とか無しっすよ!」
「はははっ。行くぞ」
「っす」
宮代さんと笑い合う。
教室に行ったらまず、藏元に謝ろう。
足取りは思った以上に軽くて、校舎に向かう気分もそれなりに明るかった。
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