254 / 321

254

「……ぉ、れ……俺、自信が全くなくて……」 「自信?」 「……藏元に好きになってもらえるような……それがずっと続くような要素なんて、俺には無いし……」 「……」 「俺よりもっと相応しい人が、いるんじゃないかって……ずっと……」 俺がポツポツと話す間、宮代さんは黙って耳を傾けるだけ。ずっと溜めてきた不安は、一言言葉にすると箍が外れたように次々に溢れ出してきた。 「なら……これ以上深入りする前にいっそ……」 「……優は、別れたいのか?」 「…………」 宮代さんの直球の質問に、俯いたまま無言で首を横に振った。 「…………藏元の話は、知ってるのか?」 「…………話?」 「最近の、藏元のこと」 「……何も……」 宮代さんの言いたいことが分からなくて、眉を寄せた。 俺とのことで、周囲に藏元が何か言ってるってこと?じゃあ藏元も、別れようか悩んでるのか?じゃあやっぱり…… 俺が唇を噛んだとき、隣の宮代さんが大きなため息を吐いた。 「ったく、あいつは……何やってんだよ……」 「??……あの、……?」 「……優も、気を遣いすぎだ」 「え……?」 「お前たちは、どっちも互いを思ってるのに……全然伝わってないんじゃ意味ないだろう?」 心底呆れた様子の宮代さんは腕を組むと俺に笑いかけてきた。 「嫌がらせ、減ってるだろ?」 「え?……ぁ、はい」 「どうしてだと思う?」 「……ぁ、飽きられた……から?」 「違うよ。藏元のおかげだよ」 「!?」 「塚本に頼み込んだそうだ。嫌がらせする奴等を説得させてくれって。説得するから罰則は無しにしてほしいってな」 「説得って……藏元が俺を庇ったら、ファンは余計に……」 「そこはあいつ、かなり頑張ったんだろうな。相手とちょっとした約束は交わしたらしいが、殆んど解決したようだし」 「約束……すか?」 「詳しい話は本人から直接聞いてくれ。俺から全部聞いたんじゃ、藏元がよく思わないだろ?」 「…………」 「だから、優と一緒にいたいって、藏元もちゃんと思ってるよ」 微笑んで俺の頭を再度撫でてきた宮代さんはどこまでも優しくて、正真正銘俺のヒーローだ。 「俺って……何も分かってないっすね……」 「優だけじゃなく、あっちも分かってないと思うけどな」 「藏元が頑張ってくれてたこと、全然知らなかった……」 そんなときに俺はなんて勝手なことばかり考えてたんだ。だから宮代さんには再三言われてるだろうに……相談しろって……。 「……さて。行けるか?優」 「……はい?」 「時間的にもう一般公開は終わりだ。ここからは学生のみの文化祭がスタートするだろ」 「ぁそうっすね」 午後は生徒たちが楽しむ文化祭。俺もいい加減戻らないと2Bのやつらに怒られそう…… ベンチから立ち上がりスカートの皺を伸ばした。 「午後の公演には優が出るって言ってあるから、頑張れよ」 「え!?」 ガゼボの屋根の下から出た宮代さんに重大な事実を知らされ、俺は思わず大声を出してしまった。 午後の公演というのは、生徒たちが生徒たちのために公開するラスト公演のこと。 一般公開と違って知った顔ばかりの客だから、何をやっても大丈夫な気楽な公演ではあるけれど、舞台に立たなくて少し得した気分だった俺としては、急にやって来た緊張感にがっかりした。 「せっかく主役をもらえたんだ。ちゃんと出て、思い出つくれ」 「うーん……思い出になるでしょうか……むしろ黒歴史になるんじゃ……」 「やってみないと分からないな。そうならないよう頑張れ」 「え、鬼ですか?」 「いいえ、生徒会長です」 「ちょっ、こういうときだけ学校側とか無しっすよ!」 「はははっ。行くぞ」 「っす」 宮代さんと笑い合う。 教室に行ったらまず、藏元に謝ろう。 足取りは思った以上に軽くて、校舎に向かう気分もそれなりに明るかった。

ともだちにシェアしよう!