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俺は今、見慣れた扉の前に立っている。
普段のイベントの日は開けっぱなしになっているのに、今に限って何故か閉まっているこの扉。中からは人の声が聞こえてくるから、いない訳じゃ無さそうだ。
何事もなかったかのように然り気無く入りたかったんだけど、これじゃ扉を開けた瞬間に全員の視線が来るよな……
2Bの教室の前にずっと突っ立っているわけにもいかず、意を決して扉に手を掛けた。
なるべくいつも通りの感じで扉を開ければ、案の定一斉に集まってきた視線。
「…………ぁの……」
しんと静まり返ったクラスメイトたちに、俺はその場でゆっくりと頭を下げる。
「……本当に、すみませんでした。ご迷惑、おかけしました」
目を閉じて、腰を曲げたまま皆の反応を待つ。これは本当に……俺が悪い。どんな罰も受けましょう。
「……だ、」
?
「大丈夫!?成崎くん!!」
「……ん?」
「まさか成崎くんがそこまで主役にプレッシャーを感じてたなんて全然気づかなくてっ……ごめんね!?」
……プレッシャー……?
「成崎くんいつもシレっとしてるから、気が乗ってないだけなのかと思ってたよっ、ほんとごめんなさいっ」
「……ぁ、ごめん、俺こそ……?」
待って。宮代さん、なんて言って誤魔化してくれたの……?
「倒れるほど役と向き合ってくれるなんて……僕らが書いた台本をそこまで大事にしてくれるなんて、本当にありがとうっ!!」
「え゛……?」
倒れるほど役と向き合う……?何すかそれ……?ガチの役者みたいじゃん!そんな情熱持ち合わせてないよ!!俺に限ってそんなことあるわけないじゃん!宮代さんっ!!!
「せめて次の、最後の公演は完璧な劇にして、最高の思い出にしようね!!」
「ぁ……うん…………ははは」
皆が、凄く張り切ってる。空気が悪くなるどころか、一層テンションが上がって一致団結してる感じに見える。
……俺に演劇に対する熱意があるなんて、皆疑ってもいいところだと思うけど……生徒会長様の言うことに間違いはないってか。
つーか、俺を疑うどころか、更に2Bのやる気まで上げていくなんて……宮代さんの先読みの能力凄すぎるだろ……。
皆が張り切る姿を、若干狂気を感じながら眺めているとその様子を俺と同じように傍観してる人がひとり。
「…………」
歩き方、ぎこちなく、ない……よな……?
その人の横まで様子を探りながら歩み寄る。
「…………あのー……」
「おかえり」
穏やかに微笑んで教室の雰囲気を楽しんでいる藏元は、特に怒ってはなさそうだ。
「……ごめんなさい」
「生徒会長に感謝だね」
「やっぱバレてましたかぁ」
「ふっ……成崎が役に集中って、……生徒会長が言ったときは吹き出しそうになったよ」
皆に見えないように口元を押さえながらクスクス笑ってる。
「生徒会長が大丈夫って言ってたから、まぁ大丈夫なんだろうなって……。演劇、出れる?」
「……うん。心配かけて、ごめん」
優しく気遣ってくれる藏元に控えめに頷く。
「……藏元」
「ん?」
「……文化祭終わったら、話したいことがあるんだ」
「……うん」
「時間、もらってもいい?」
「……分かった。空けておくよ。」
盛り上がる教室内で、俺たちふたりだけが静かな時間を過ごした。
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